持続可能なまちは小さく、美しい


はじめに

 満開の桜の祝福を受けて、この春、徳島県上勝町の子どもたちが入学式を迎えました。今年の新入生は中学校で10人、小学校で13人でした。しかし、就学前の子どもになると、5歳児は9人、4歳児が17人、3歳児は10人、2歳児は6人、1歳児は9人、0歳児は7人しかいません。いずれ2学年を1学級に編制する複式学級になり、やがて閉校にでもなれば、子どもを持つ家庭はこの町に住みにくくなり、過疎化と少子化にいっそう拍車がかかります。

 上勝町の人々は、山に木を植え、棚田を耕し、みかん畑を造成して懸命に働き、子どもを育ててきました。しかし、成長した子どもたちは高校、あるいは中学卒業と同時に町外に出て行かざるをえません。1965(昭和40)年ごろからこのような状態が続き、6000人を超えていた町の人口は3分の1以下の2000人にまで減少しました。高齢化率は50%に迫り、55ある集落の30までが限界集落になっています。このまま推移すれば町そのものが限界自治体になり、いずれ消滅してしまいます。

 しかし、そんな小さな町にも、「持続可能な地域社会」をつくるという大きな目標があります。この目標を実現するには、より多くの人に農山村の実情を知っていただき、力を合わせて環境と経済が調和した持続可能な社会の実現を図らなければならないという思いから、本書の上梓を考えるようになりました。この本は、木材とエネルギーの生産地だった山村が経済のグローバル化によって外国産材と化石燃料の消費地になったことを明らかにし、その結果もたらされたさまざまな問題を解決するために上勝町がどんな努力を続けてきたのかをまとめてあります。さらに、各地に持続可能性を取り戻す方策として「資源回収法」(仮称)と「過疎過密国土荒廃防止法」(仮称)を提案しています。

 幸いなことに、希望の端緒はたくさんあります。木の葉を商品にする「いろどり農業」や、34分別によるごみの減量などが注目を浴び、毎年人口の2倍以上の視察者がこの町を訪れています。ワーキングホリデーや棚田オーナー制度をはじめとする交流を通して定住者も増え、町に活気が出てきました。2006(平成18)年には全町に光ファイバー網を敷設し、この町にいながら世界の情報を受発信し、ビジネスができる環境を整えました。昨年はマイクロソフト株式会社と「ICT(情報通信技術)を利活用した地域振興に関する覚え書き」を締結し、ICTによる活性化を検討しています。

 農山村を取り巻く構造的な問題は日本だけでなく、世界でも変わりがありません。上勝町の事例を通して、なぜ世界は持続不可能になったのか、どうすれば持続可能な社会を再構築できるのかを考える契機にしていただければ幸いです。この町の目標である持続可能な地域社会が実現すれば、町民はもとより、世界中の人々が夢と希望を持つことができると信じています。

笠松和市