バスでまちづくり

都市交通の再生をめざして

書 評
『高速道路と自動車』((財)高速道路調査会)2007.8
 サブタイトルに「都市交通の再生をめざして」とある。書き出しが「本書では、いわゆる過疎地のバス問題は取り上げない」であったのには、正直度肝を抜かれたが、読み進むうちに、過疎地に比べて取り巻く環境との因果関係も多彩で、変化の激しい都市部におけるバス交通のあり方を検証することで、まちづくりにどう活かしていくかという論点が明らかになり、その考え方や手法は都市であるか過疎地であるかに関わらず、十分に活用できるものだという思いが強まってきた。
 まちづくりはそれぞれの地域にとって重要な課題である。しかしそのまちづくりにとって重要な要素になるはずの交通が軽視され、または欠落しているという印象は、評者も感じている。それに対して交通、特にバスの可能性を明らかにし、伝えてくれているのが本書であり、読者にとっても“わが意を得たり”というところである。
 著者は都市におけるバスの研究者としては第一人者である。おそらく、実際のフィールドワークという観点でも、最も多数の事例に関わり、実証してきていることと思う。また、海外におけるバスを活用した新たな都市交通システムについても、いつもいちばんポイントをついた紹介をしてくれるのが著者であると感じている。
 その経験が本書に十分反映されている。本書は序章と終章の間が7つの章で構成されており、それぞれ「バスによる幹線輸送」「バスを活かした福祉政策」「情報技術を活かしたバスシステム」「環境政策の中のバス」「都市開発戦略とバスの連携」「交流拠点としてのバス停車施設」「バスを活かしたまちづくりの課題」について論じている。内外の具体的な事例を十分に吟味し、課題の提示と政策提言に導く展開はわかりやすい。
 ただし、それぞれの中身は高度であり、初心者にはなかなか理解の域に達しない部分もある。図らずも、なのか、意識されたかはわからないが、1〜5章の副題にはそれぞれBRT、DRT、ITS、TDM、TODの英略語が使われている。これらも、近年は国の文書などでも使われるようになっているが、略す以前の言葉自体がかなり専門的で、それでなくても外国語頭文字2〜3字を組み合わせた略称が氾濫している折、一般に理解を深めるためには一考を要する。この点を含めて、平易な文章で表そうとした努力は十分に感じられるのだが、まだある程度の知識をすでにもつ人でないとすんなり入っていけない部分があることは指摘しておくべきであろう。これは研究者が地方自治体や住民などを対象に書を著したり説明をする場合の共通の課題でもある。
 もうひとつの課題に、交通は利用者の行動を伴って成立しているということがあり、利用者心理がそのあり方や仕組みに大きく関与する。第2章のDRTのケースなどで利用者側の受け止め方についての記述はあるが、それぞれのシステムと「人」との関係にもう一歩踏み込めれば、より深みが増したに違いない。
 カバーにかけられた帯に「バスはもっと活かせる」と書かれている。読者もまさにそのとおりだと思う。そしてそのためのノウハウや実例が本書にはちりばめられているのだが、紹介された事例を読者がきちんと噛み砕いて、それぞれの都市で自ら直面する課題に応用問題を解くつもりで参照していただきたい。よい事例や理論に出会うと、個々の地域にとってどうなのかという検証なしについそれをそのまま採用してしまい、結果的に失敗するというケースはこれまで数多く見られた。それはおそらく本書がいちばん望まない結末なのだと思う。

(鈴木文彦)
『建築とまちづくり』(新建築家技術者集団)2007.08
 19世紀末から「大容量/高速/長距離」輸送が国家的交通政策として整備された。日本国中いたるところに高速道路、新幹線、空港、港湾を整備し、地元政治家はそれらの誘致合戦に力を入れた。
 しかし当然ながらこれらには相当な建設・維持コストが必要となり、20世紀後半にいたって国家はこれ以上の負担ができなく(負担をしたくなく)なった。儲からない部分ではなおのこと。いきおいそれは地元自治体が自前で負担することとなり、第三セクター鉄道、県営空港などが出現した。財政規模が何桁も下の運営主体に代わるのだから、赤字に喘ぐのもまた当然である。地政的条件や積極政策により奇跡的に経営が成り立っている一部の例外(智頭急行、北越急行、能登空港等)を除けば、鉄道路線は毎年のごとくどこかで廃止され、空港も自治体財政を大きく圧迫し続けている。
 こうした不全がなぜ起こるか考えれば、それは“身の丈に合ってない”からである。所与のものとしてあるから廃止せずに使うだけであって、地域の実情に合っているかどうかとはこの時点では無関係。そしてそれはほとんどどの地域でも“合ってない”のだ。ゆえに不全。赤字。地域に必要なのは失政のお下がりではなく、“身の丈にあった交通”なのである。
 バスはこれまで「時刻表通り来ない」「来たと思ったら満員で乗れない」など、とかく評判が悪かった。これらは放任されたモータライゼーションと交通政策のまったき欠落によるものであった。しかしそれらは「適切な政策」と「実情に見合った詳細な計画」によって克服できる。武蔵野市のムーバスはこれを実現した最初期の例であろう。ブームに便乗して各地に現れたコミュニティバスでは、相変わらず無策なまま失敗している例も多いのだが。
 本書では「適切な政策」と「実情に見合った詳細な計画」は何かが具体例を持って説かれる。政策としてはTDM(交通需要マネジメント)やモーダルシフト等、計画としてはオンデマンドルート設定やパークアンドライド、バス優先レーン等。そしてこれらが一都市(または広域都市)レベルでのまちづくりに深く関わっている例が取り上げられ説得的に語られる。地域それぞれで独特な「適切な政策」と「実情に見合った詳細な計画」の重要性が事実を持って示される。
 LRTは相当持ち上げられ、日本でも富山ライトレールなど注目すべき例も出ているが、それでも建設・運営には相当なコストがかかる。多くの地域の財政規模・経済規模に見合う交通手段はLRTよりいろいろ小さいバスだろう。これらバスの積極性をまちづくりに携わる多くの建築技術者・都市計画技術者は知るべきである。本書はそのための恰好の教科書である。
(早)

月刊『ガバナンス』(鰍ャょうせい)2006.12
 都市交通を支えている自治体のバス事業の赤字問題が積年の懸案課題となっている。暮らしに欠かせない日常の足であるはずのバスに人気がないのはなぜなのだろうか。
 本書は、まちづくりに重要な交通計画の観点から、バス交通についての多くの実地検証データをもとに、都市交通の再生のためにバスをどのように活かすべきかをあらゆる角度から徹底追求している。
 バスによる幹線輸送の可能性やバスを活かした福祉政策、情報技術を活かしたバスシステム、環境政策の中のバスの役割、そして都市開発戦略とバスの連携など、バスの能力は意外と高く、これをまちづくりに活かさない手はない。