歴史を未来につなぐ まちづくり・みちづくり


書 評
『建築士』((社)日本建築士会連合会)2006.11
 都市計画道路が、伝統的なまちを分断してきたのを、苦々しく見てきた人も多いと思われる。しかしこれに対して、伝統的なまちを見直すまちづくりが住民主導で始まり、利便性を求めるみちか、伝統的なまちかの議論が全国各地で高まっていった。
 この本は、いまから20年程前からはじまった“歴みち事業”(身近なまちづくり支援街路事業)の記録である。道路の利便性の追求を最優先していた時代に、当時の建設省の街路課と文化庁が、縦割り行政の枠を越えて、歴史を未来につなぐために、伝統的なまちとみちの融合を目指してきた人たちがいた。その主張には、私たちが今まで道路に対して抱いてきた不満を拭い去るような言葉が並んでいる。
 いままで道路幅は、全国どこでも同じと思っていたが、その地域の歴史的な特性を生かすために、蛇が玉子を飲み込んだような凹凸のある“ヘビ玉道路”まであって、かなり柔軟な対応をしていることがわかる。
 かつて訪れた伝統的なまちに道路の拡張計画があり、これからどうなるのかと心配していたが、この本によると、その後みちとまちが調和して見事に完成しているのを知ってほっとした。
 この本は、みちを中心として伝統的なまちなみを眺めているので、全国の伝建地区(伝統的建造物群保存地区)の今の地区の様子が手に取るようにわかる。
 この本は、文化財と都市計画のほか、景観まで幅広い行政の協調の成果を知ることができるので、伝統的なまちづくりに関心のある人には必見の書である。
(大海一雄)

『高速道路と自動車』((財)高速道路調査会)2006.10
 まず、魅力ある書名をつけたことに敬意を表したい。結論的にいえば“まちづくり・みちづくり”に新しい概念を持ち、20年余りにわたり、多くの都市で実践し、そこから多くの知見を得て、取りまとめた本である。そのことから、編著者の新谷洋二さん外7名の著者の方々ならびに関係諸氏にご苦労さまといいたい。
 本書は“まちとみち”と仮名書で、しかも“づくり”となっている。極めて融和的で、総合的で、民衆的な印象をうける。前半はまちづくりについて、国民として、市民として、住民としての意識の変化、行政の対応など、基本的なことが述べられている。二章において、実施してゆくための元となる課題などに参加する人びとの能力の啓発を喚起している。よって意をもって参考にすることを、おすすめする。さらに、資源論と開発論との関係について、いま少し紙面をもらって事例の解釈を述べてはどうか、それは私のみではなかろう。
 三章では、みちづくりと、自動車の急速な普及による乖離を解決する問題である。歴史財と人工度の高い街路事業について、その経緯と人と車についての対策事例が整理されて述べられている。非常に参考となる。
 次の四章では、歴史を色濃く残している地区について、特に歩行規模に着目し、事例では部分、意匠についても言及している。歩行規模でつくられるみちへの対応として、正解と思う。
 編著者の記述である五章は、都市規模の歴史と道路の対応についてである。長い年月の労作がにじみでている。歴史財を身近に持つことの価値意識は、住民にかなり普及している。が、文明の優等生ともいえる自動車との対応は、ここ半世紀、わが国の都市問題の主要課題の一つである。まちづくりは点、線、面ときには地下、天空まで対象となる。景観問題は、その総決算ともいえる。歴史財の扱い方を具体的に示した本書は、今後の各方向にも、多くの示唆を与えるものと思う。
 はじめに少し誉めすぎだと思われる方もおられるでしょう。しかし私見を少し述べれば、この種の事業には、わが国の諸条件は、困難な条件があまりにも多い。キーワードのみをあげておくが、わが国の生い立ち、自然の営力は、プラスにしろマイナスにしろ、極めて強力である。したがって構築する材料、構法、工法も生活、文化にその影響が強い。さらに政治、経済の仕組にも不利な条件が包蔵されている。
 したがって、まちづくり・みちづくりは、公益性と経済性、公と私などの調整なくしては、達成できない事業である。その苦労を学ばせてくれるのが、本書であると思う。
 ところで、歴史財以外にも、マクロ・ミクロな条件、たとえばヒートアイランド、静穏性、景観、生物環境、観光レクリエーションなど、むずかしい課題が山積みしている。これらを統合した、まちづくり・みちづくりの新しい概念づくりを今後に期待したい。
 いずれにしても、長くつづいてきた、上意下達から下意上達が、この種の事業への実践実例が整理されて紹介されている。行政当局の方々のみならず、専門を目指す人々にとって、すぐれた参考となることは間違いない。本誌の読者諸氏にとっても、この思想はすぐれた学習書といえる。
((社)道路緑化保全協会会長/鈴木忠義)

『地方自治職員研修』(公職研)2006.5
 モータリゼーションの進展とともに社会が自動車交通をもっとも重要な都市計画の要素とみなしたことから、道路は拡幅し、沿道の歴史的景観は失われていった。しかし七五年の伝建地区制定により、地域の歴史や文化、生活環境を尊重しつつ、自動車の安全な通行と快適な歩行空間を実現することが、まちづくりの核となった。本書は歴みち事業をはじめ、これまでの道路整備と景観保全の積み重ねを集大成し、文化財・都市計画・景観行政の協調による計画、設計、デザインのあり方を示す。

『新建築』((株)新建築社)2006.3
  1982年に創設された「歴史的地区環境整備街路事業(歴みち事業)は、弾力的な「みちづくり」によって、歴史的資産の保全と、現代生活に不可欠な自動車交通や都市の活性化の調和をめざしたもの。本書はこの「歴みち事業」の背景と、萩や川越など数多くの実践を詳しく紹介しつつ、道路整備・街路デザインの実践の側から、歴史を生かしたまちづくりの方法論と着地点を示している。景観法が制定され景観への関心が高まる中、開発と保全の競合の問題に悩む全国各地の関係者にとって大いに参考になるだろう。
(m)