創発まちづくり


書 評
『建築士』((社)日本建築士会連合会)2006.11
 本のタイトルの「創発」という言葉を聞いたことがなかった。インターネットで検索してみると次のように紹介されているそうだ。
 「局所的な相互作用を持つ、もしくは自立的な要素が多数集まることによって、その総和とは質的に異なる高度で複雑な秩序やシステムが生じる現象のこと。所与の条件からの予測や意図、計画を超えた構造変化や想像が誘発されるという意味で、「創発」と呼ばれる」
 この言葉をキーワードとしたまちづくりの実践例を7人の著者がいろんな視点、例えば学生たちの「ビジネスプラン・コンテスト」、広島SOHO、クラブの「人肌」運営方針、里山あーと村の「言い出しっぺの原則」、「探知創発のマネジメント」、しまなみ倶楽部の「この指とまれ方式」、「オンナ・コドモ」の発見、そして行政担当者自らの委員会座長就任などなどを熱心に紹介している。即ち「創発」という概念をまちづくり、とりわけ市民・住民の組織的なまちづくり活動のありかたとして、多くの主体的な個人や団体が集まって、相互に活発な関係を結んだ結果、全体として何か新しいものが生み出される。生み出されたものは個々の人や団体のもつ欲求や論理や能力からは予め予測できなかったようなものであって、それがまた個々の人や団体の行動に影響を与える。このような視点、最初に計画がありきではなく、「手さぐり」の体験のなかから、たどりついた戦略を創発のまちづくりと呼んでいる。トップダウン方式ではない住民主導型のまちづくりの一つの戦略論として提案している。最後に実践事例から得られた結論を創発まちづくりの九原則としてまとめている。
 団塊の世代が地域のまちづくりに入るときの心構えのバイブルとしても役立つのでは。その九原則の第一は「走りながら考えること」である。
(大嶌栄三)