環境と空間文化


書 評
『庭』(龍居庭園研究所)2006.3
  近頃、頻繁に目にする「環境」という言葉。日本もようやく、効率一辺倒から、環境にも目を向けるようになったかと、喜んでばかりもいられないらしい。「環境破壊への言い訳として、建築の周りに数本の木を植えるたぐいの免罪符型環境デザイン」など、うわべだけの「環境幻想」が横行しているという。
  本書はそのような風潮から、反語的に「環境なんかくそくらえ」と言いつつも、建築・都市デザインの専門家がそれぞれの観点から、真摯に環境論、景観論を戦わせる。
  これまでの環境論はあまりに欧米追随型でありすぎたのではないか。向こうが「ビオトープ」と言えば、こちらも「ビオトープ」。「ゼロエミッション」と言えば、こちらも「ゼロエミッション」だ。自然観、宗教観の異なる日本と欧米の必要性はイコールなのかという問いかけ。
  周囲の環境から内部空間を遮断することによって、世界中どこへ持って行っても調和する建築物、近代化のシンボルとなる超高層、または木造の排除。こうした「近代建築の主導原理」への反発。
  伝統的な街並みとは、「進化と競争原理」の産物であるにもかかわらず、その「意匠の生成システム」を無視して、ただ結果としての伝統的街並みに目を向けることへの疑問。
  多彩な議論を通じて見えてくるのは、「山川草木を織り込んだ」都市の姿、あるいは「地形や風といった大地との関係の修復」を目指した建築様式、さらには「土地の自然条件への適合を造形の根拠」にした街並み景観だ。
  集約すれば「自然あるいは環境生態系と人間の文化システムを互いに包括すること」が大切というメッセージになる。
  この「環境と文化の密接な縁」は、和辻哲郎の名著『風土』にまで遡れる古典的概念であるが、本書は、その未来的発展のためのガイドブックとも言える。
  共感するところが多いが、ただ、時として難解だ。これからの景観は、専門家だけが追求するものではなく、住民を含め、すべての人々が共有しなければならないテーマではないだろうか。「デザインの根底はコミュニケーション」。そのためには専門家からの易しい手引きが欲しい。

『環境緑化新聞』 2005.11.1
環境と人間の創造的な関係こそ文化
  「環境と空間文化の関係が、単にどちらかがどちらかの制約条件であるに過ぎないのか、あるいは二つの間のクリエイティブな関係が成立しうるのか、というところが本書の議論の鍵」であると本書の編者である中村良夫氏は述べている。それをやや歴史を遡りながら、環境思想と空間文化という切り口で考えていく。本書の副題は「建築・都市デザインのモチベーション」。デザイナーの本来の役割を示し、環境と人間の開いた関係性構築をさぐるものである。
  執筆は編者の中村氏を含めて6名。全員が環境と文化という二元論の超克を議論する上で重要な@多分野への越境A事例の重視B歴史の重視C市民参加の役割の見直しという条件を実行している。第1章は環境工学の小野芳郎氏。第2章は景観工学・地域計画学・造園学の堀繁氏。第3章は建築家の内藤廣氏。第4章は社会工学の斉藤潮氏。第5章はコミュニティデザイン論・造園学の土肥真人氏。各章の終わりに全員による「ディスカッション」が収録されており、話題を盛り上げ、内容をわかりやすくしている。