観光カリスマ


今、なぜ「観光カリスマ」なのか

観光カリスマの誕生
  「観光カリスマ」は、次のような経緯で誕生した。平成14(2002)年6月、経済財政諮問会議の「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」が閣議決定された。それを受け、生活産業発掘分野の活性化における具体的推進を図るため、経済財政諮問会議の下、生活産業創出研究会(座長:島田晴雄内閣府特命顧問)が発足、「観光産業の活性化」および「健康の産業化」等について、今後取り組むべき政策課題についての検討がなされた。同年12月26日「生活産業創出研究会報告書」がまとめられ、その中で観光カリスマが提案された。そして同日、第1回観光カリスマ選考委員会(委員長:島田晴雄内閣府特命顧問)が開催され、11名の観光カリスマが誕生した。委員会事務局は、内閣府、国土交通省、農林水産省の三府省により組織・運営された。その後、委員会を重ね、平成17(2005)年2月23日第八回選考委員会において、100人の観光カリスマが認定されるに至った。

 近頃のわが国における観光の動きは、かまびすしい。平成14(2002)年12月に「グローバル観光戦略」が策定されるとともに、国土交通省グローバル観光戦略推進本部が設置され、平成15(2003)年3月にはビジット・ジャパン・キャンペーン実施本部が設置され、積極的な外国人観光客誘致が始まった。また、平成15(2003)年1月には「観光立国懇談会」が開催され、同五月、内閣総理大臣が主宰する「観光立国関係閣僚会議」が設置され、同7月には「観光立国行動計画〜『住んでよし、訪れてよしの国づくり』戦略行動計画〜」としてアクションプログラムが策定された。平成16(2004)年11月には、観光立国推進戦略会議(会長:牛尾治朗)により「観光立国推進戦略会議報告書〜国際競争力のある観光立国の推進〜」がまとめられ、4つの課題と五五の提言が行われるなど、今までにない活発な動きを見せている。このような動きのなかで、「観光カリスマ」は誕生した。

 観光カリスマ選定の趣旨は、次の通り(国土交通省のホームページより)。
  「従来型の個性のない観光地が低迷する中、各観光地の魅力を高めるためには、観光振興を成功に導いた人々のたぐいまれな努力に学ぶことが極めて効果が高い。各地で観光振興にがんばる人を育てていくため、『観光カリスマ百選』選定委員会を設立し、その先達となる人々を『観光カリスマ百選』として選定する。」

観光カリスマへの道
  観光カリスマには、いくつかの共通点がある。それは、裏を返せば観光カリスマの条件ともいえる。さらには、これらの条件を学び実践すれば、そのやる気次第では観光カリスマになれるということでもある。

 名称はどうあれ、今後の観光振興を推進していくためには、さらなる観光カリスマの輩出が期待される。人材育成の重要性はいうまでもないが、そのなかでも最も重要視されているのが、総合プロデューサー的役割を果たす人材ではなかろうか。観光カリスマは、まさにその能力を備えた人であるといえよう。今回選定された観光カリスマは、その先陣にすぎない。しかし、その先陣としての役割は重い。自己の持つ情報を大いに発信し、さらに多くの観光カリスマを輩出する役割を担っている。

 観光カリスマと呼ばれるためには、たぐいまれな努力が必要なのはいうまでもない。また、観光カリスマは結果そうなったにすぎず、なることが目的であろうはずはない。しかし、その結果を目的に置き換え、努力することはやぶさかでない。観光カリスマに共通する能力を、ここで改めて検証する。

1 多様な分野の能力を生かす
  観光カリスマは、そば屋さん、建築業、農業経営者など、多くの産業にまたがっている。愛知県日間賀島の中山勝比古さんは、宿泊業を営みながらも漁業への関心が人一倍強いし、連携を欠かさない。観光振興における卓越した能力とは、何でもいいのである。要は、自分が好きなことを貫き通し、それをさらに好きになるように観光振興というものを考えていくのが、良い観光推進の手順なのである。

2 何事においても情熱を持ってあたること
  観光カリスマは、情熱がある。地域の話を語り始めると止まらない。あるシンポジウムで愛媛県内子町の野田文子さんと話す機会を得た。農業の話に熱が入る。主婦のおしゃべりとは訳が違う。相手に情熱を感じるのは、相手が自信を持って話している時であろう。情熱は、自分の行動に対する自信から生まれる。

3 地域に根づくこと
  観光カリスマは、当然ながら地域に住んでいる人である。しかし、時として地域の人に、外部コンサルタントや学者への過信や押しつけが見え隠れすることがある。沖縄県伊平屋島で「海の学校」を開く今井輝光さんは、沖縄と東京の生活を持つ。しかし、沖縄で会う今井さんは、どう見てもウチナーンチュ(沖縄人)である。行く先々で、島の人々から声がかかる。地元の人以上に、沖縄に自信を持っている。観光カリスマは、地域にしっかりと根を下ろして仕事をしていることが基本である。

4 ネットワークをつくれること
  これからの観光地づくりは、ネットワーク型の組織づくりが重要である。ネットワーク型に相対するのは、ピラミッド型。参加する個人や地域の個性や知恵をすくい上げるためには、ネットワーク型の方がよい。ピラミッド型は、どうしても上位の少数が強くなる。観光カリスマは、頂点にいて指示するのではなく、地域のまとめ役として、個と連携し、常に全体を見ながら動いている。

5 多様な人材と交流をする
  観光カリスマは、地域の内外に実に様々な人材のネットワークを持っている。多くの観光カリスマは、観光カリスマ制度ができる前から、互いに見知っている人も多い。観光カリスマは、その幅広い人脈で得た人材を問答無用にこき使う。しかし、使われた人はそのことに満足しているから不思議である。カリスマの情熱がそうさせるのである。

6 地域内流通システムに関心を持つ
  観光カリスマは、常に地域の流通について考えている。観光振興は、地域産業の集積から成り立つものであり、他産業との連携は不可欠である。したがって、多くの産業に観光への理解を深め、新たな経営対象として観光産業への取り組みを促していくことが重要となろう。もちろん、新たなマーケットに対応するため、小さくとも地域にふさわしい産業の起業も忘れてはならない。

7 真似をしない
  観光カリスマの強さは、その独自性にある。これからの観光振興には、地域の生活が生み出した地域文化をさらに磨き上げ、独自性を出していくことが必要である。情報収集は、知識を収集し知恵の糧にするもので、真似をするためのものではない。真似では、決して観光によるブランドづくりはできない。

8 先を考える
  観光カリスマは、今の事業を推進しながら、常に次の事業の素材を見出そうとしているから、次から次へと発展的に事業を考えられる。したたかに先を見ながら人を巻き込めるのも、カリスマたる所以である。

 観光カリスマは、時の人ではない。観光カリスマとは、その人の歩みの中での様々な経験と、これからの果てなき想いに裏打ちされたまちづくり人生に与えられた称号なのである。

 観光カリスマへの道は誰にでも開かれている。本書に登場する一八人のカリスマたちがそのことを証明している。(本文抜粋)

(社)日本観光協会 古賀学