エリアマネジメント


はじめに

 現在のわが国の都市づくりの状況を全体として見ると大きく二分されている。一つは競争の時代に積極的に質を高める都市づくりであり、大都市の都心部における活性している地域がより優位に立つために展開している都市再生である。もう一つは衰退している地区を再生する都市づくりで、地方都市の中心市街地における衰退している地区の生き残りをかけた地域再生である。

 最近では大都市の都心部における活性している地区の都市再生も、また地方都市中心市街地における衰退している地区の地域再生にも、これまでのようにデベロップメントによる都市づくりだけではなく、マネジメントによる都市づくりの必要性が認識されるようになっている。そのような都市づくりにおけるマネジメントをエリアマネジメントとして捉え、大都市から地方都市までの多様な地区で、様々な主体や組織によって担われているエリアマネジメントの実態について事例を通して紹介することが本書の目的である。

 近年、大都市都心部の各地区で地区をマネジメントする試み(エリアマネジメント)が行われ、またそのための組織が作られている。また地方都市中心市街地でも活性化のためにTMO(タウンマネジメント・オーガナイゼーション)が組織化され活動している。このようなエリアマネジメント、あるいはタウンマネジメントの動きは欧米ではかなり以前から本格的に展開しており、都市づくりの中心的な活動となっており、その活動を支える様々な制度や手法が開発されている。

 わが国の大都市都心部の事例としては、現段階では大規模プロジェクトと連動しているものが多いが、必ずしも大規模プロジェクトとは関係なくエリアマネジメントを実践している地域もあり、近年はそのような事例も増えつつある。

 東京都心部では、大手町・丸の内・有楽町地区での「NPO法人 大丸有エリアマネジメント協会」、六本木ヒルズでのタウンマネジメント組織「六本木ヒルズ運営本部」、晴海地区の「晴海をよくする会」、汐留地区の「中間法人 汐留シオサイト・タウンマネジメント」などがそれぞれの地区でエリアマネジメントを実践している。また大阪中心部では長堀地区に「NPO法人 長堀21世紀計画の会」、御堂筋地区に「御堂筋ネットワーク」、さらに大阪ビジネスパーク地区には「大阪ビジネスパーク開発協議会」が活動して、エリアマネジメントの比較的長い歴史がある。またそれ以外にも、横浜には関内地区に「横濱まちづくり倶楽部」、MM21地区に「(株)横浜みなとみらい21」があるし、神戸には「旧居留地連絡協議会」があり、エリアマネジメントを進めている。

 いずれの地区でも様々なレベルの都市づくりを行いつつ、それと連動してエリアマネジメントを実践している。エリアマネジメントの内容も地区特性に応じて多様な内容となっているが、大別すれば、第一に公共施設空間や非公共施設空間の積極的な利用を通した施設や空間のメンテナンスやマネジメント、第二にイベントに代表される地域プロモーション、社会活動、シンクタンク活動などのソフトなマネジメントがある。

 例えば、大丸有エリアマネジメント協会では、世界の主要都市で行われてきた「カウパレード」というイベントを、2003年にアジアの都市として初めて、大手町・丸の内・有楽町地区で実施することを支援している。このイベントは千住博、山本容子、日比野克彦らをはじめ多くの著名なアーティストがデザインした実物大のファイバーグラスの牛64匹を、当該地区の公開空地やアトリウムなどに1ヶ月間置いたものであり、大きな評判を呼んだイベントである。2004年度には「アート丸の内」のイベントを支援し、コトバメッセと東京コンペなどの新しいイベントに挑んでいる。それ以外にもオープンカフェ、大道芸フェスティバルなど多彩なイベントを実施し、あるいは支援している。

 また長堀21世紀計画の会では、ナガホリカーニバルや心斎橋ショーウインドーコンテストなどの各種イベントの実施を経て、現在は街づくり協議会「長堀・心斎橋ファッションコミュニティー」を結成し、「おしゃれな大人の散歩まち」をテーマに地域の発展に力を入れている。

 一方、地方都市中心市街地での「タウンマネジメント」は中心市街地活性化法という制度により位置づけられているものであり、中心市街地の活性化のためにTMOが組織化され活動している。しかし実際に有効なエリアマネジメントを実施しているのは、制度発足以前から地道にエリアマネジメントを実践していた地域であり、組織である場合が多い。

 そのような事例として、北は青森市の(有)PMO、福島市の(株)福島まちづくりセンター、さらに東京の近くでは三鷹市の(株)まちづくり三鷹、日本海側では七尾市の(株)御祓川、松江市のNPO法人まつえ・まちづくり塾、中部では飯田市の(株)飯田まちづくりカンパニー、西では高松市の高松丸亀町まちづくり(株)などをはじめとして多くの事例を挙げることができる。

 それらの地域の組織は株式会社、有限会社、NPOなど様々な形態をとりながら、空き店舗対策、イベントの開催、個店支援などの個別の施策を展開しつつも、中心市街地再生の全体企画、管理・清掃、街並みの形成などの役割も担って、地域のマネジメントを実現しようとしている。

 本書はいくつかの機会を通して内容が固められてきたものである。第一に、私が大手町・丸の内・有楽町地区の再開発に関するグランドデザインづくりの研究会に参加し、エリアマネジメントの重要性について主張し、それをこの地域の地権者の集まりである再開発協議会が取り上げたことである。第二に、文部科学省の科学研究費補助金を3年間継続して受け、多くの地区のエリアマネジメントの事例を調査研究できたことである。第三に、横濱まちづくり倶楽部や大丸有エリアマネジメント協会に参加しエリアマネジメントの実践に関わったことである。

 その間、研究室の研究活動に関わってくれた内海麻利・駒澤大学助教授、村木美貴・千葉大学助教授をはじめ、横濱まちづくり倶楽部や大丸有エリアマネジメント協会の関係者など多くの方に協力をいただいた。また李三洙君(後期博士課程2年)をはじめとする研究室の大学院生の協力も大きい。さらに、平成13年度の浅井孝彦君、森田佳綱君の修士論文、および平成14年度の北澤知洋君、渡辺裕之君の修士論文も本書の成立に大きく寄与している。それらの協力がなければ本書は実現しなかったと考え、ここに心から感謝する。また本書の刊行にあたっては、これまでのいくつかの図書と同様に学芸出版社の前田裕資氏、宮本裕美氏の全面的な助力を仰いでいる。ここに深く感謝する。

小林重敬