データで読みとく 都市居住の未来


はじめに

 都市・住宅は今後どうなっていくのだろうか? 本書はそのために関連するデータを収集し、それを読み解くことで、将来の姿を描いてみようとしたものである。
  過去の50年間を振り返ってみると、日本の都市部の様相は大きく変化してきた。戦後の復興期における都市修復の時代から、高度成長期を経て都市人口は急増し、それに合わせて都市は拡大していった。高速鉄道網や高速道路網の整備は、人々の時間距離を縮め、それまで都市圏域でまとまっていた経済圏は大きく拡がり、その中心的な都市はより広域核として発展を遂げていったのである。しかし、人口減少、そしてまもなく世帯数減少の時代を迎えようとしている現在、都市拡大はもう当然の前提ではなくなってきた。さらに、価値観の多様化によって、どのような都市が現出しようとしているかは、予想が難しくなっている。
  技術革新によって、住宅の様相も大きく変化してきた。断熱性、耐震性など基礎的な性能の向上に加えて、椅子座によるダイニング方式の普及、食器欠けの少ないステンレスの流し台の普及、様々な電化製品の普及によって、家庭における家事負担が大幅に軽減された。さらに、核家族化の進展と標準家族モデル概念の崩壊により、住宅の間取りも、核家族世帯に向いていたnLDKという固定的な形式から、より柔軟で多様な住戸形式に変わりつつある。また、情報技術の発達により、住宅の職場化が進み、SOHOという住形式も生まれつつある。世帯規模の縮小化傾向と個人の生活の仕方の多様化によって、求められる住宅のあり方も多様になっている。
  今後の50年間を展望しようとするとき、過去の50年間のレビューからわかることは、その単純な趨勢の延長としては展望ができないという事実だろう。想像を超える技術革新や世界情勢の変化があることはほぼ確実と言っても良い。ただ、過去の50年間を見て気づくことは、社会の変化、技術革新が、人々の欲求や願望に支えられて発展してきたということである。その点をうまく捉えることができれば、50年後を展望することもある程度は可能であろうと思われる。本書はこの難しい課題にあえて挑戦してみたものである。
  ただ、その際に注意したことは、今後の発展に対する直感を大切にしつつも、今までの趨勢を統計資料など客観的な資料によって補い、事実に基づく予想を心がけたことである。このようなアプローチは、一方で統計にとらわれることで、大胆な予想ができなくなる限界がある。その点については、6回行ったディベートにおける論者の発言によって補うこととした。もとより、統計資料から読み解ける予想は限られており、50年という長期を展望しきれていない部分も多いだろう。そのような記述も含めて、今後、数十年間、楽しみながら読まれることができるならば望外の喜びである。

東京大学空間情報科学研究センター教授  
浅見泰司