書 評

『地方自治職員研修』(公職研) 2004. 3
 工業化社会において、公害問題に端的に表れるように、環境重視と経済活性化という二つのベクトルは相反するものだった。今日、工業化・近代化を超えた新たな社会経済モデルを探求する中で生まれたサステイナビリティという思想は、厳格な自然保護派もデベロッパーも包容する、新たな可能性に満ちている。本書は、人間の生活や自然を主軸におくサステイナブルシティを目指したEUでの実践を紹介。そのベースとなる哲学とある種の切迫感が、日本の都市再生との違いを明らかにしている。

『建築とまちづくり』(新建築家技術者集団発行) 2004. 1
 表題の都市の持続とは何か。著者は、社会経済の変化によってある都市の基幹産業などが衰退し都市自体も疲弊した時に、都市が新たな役割を見出して再活性化することを持続としている。環境共生やリサイクルによってサステイナブルな環境をつくり上げた都市という意味ではない。社会の変化は常であり、それに伴って都市も変貌し続ける。ヨーロッパにおけるその実態と支える政策を紹介した書である。
  冒頭、共に基幹産業であった製鉄業が衰退したビルバオと北九州の事例が紹介される。グッケンハイム美術館を核に文化都市を目指すビルバオ、環境産業での活性化を目指す北九州。負の遺産である製鉄所跡地が都市再生で重要な役割をはたしている。
  第2章からはEUの都市政策が細かく紹介される。ちょっと読むのがしんどい部分だが、特区によって勝ち組によりアドバンテージを与えようとする日本の政策とは逆に、負け組みを丁寧に引っ張り上げようとするヨーロッパの姿勢が読み取れる。ヨーロッパに行くと、市場経済の上で社会主義の政治が行われているかに思えることがあるが、本書からもそうした感じが伝わる。
  さらに重要なのは、都市を単独で再生するのではなく、都市のネットワークによる地域活性化の動きである。これからは国という枠を超えて都市と都市が関係を持つ時代と言われてきたが、実態もここまで進んでいるのかと驚く。役割をうまく分担した都市間の関係は、それぞれの周辺農村地域も巻き込んでアイデンティティに溢れたシティ・リージョンを形成する。
  シティ・リージョンの典型である、オランダのアムステルダム、ロッテルダム、デンハーグ、ユトレヒトの諸都市で構成されるランド・シュタットは、地域の広さで東京都市圏に匹敵するという。人口減少という社会状況を踏まえ、一極集中型の東京圏に多極型ランド・シュタットのよさが取り入れられないかと著者は提案する。この立場は一昨年の郊外問題特集以来の本誌の主張でもある。小泉さんや石原さんが大好きな国際競争に強い東京を目指すにも、東京圏というシティ・リージョンの発想が不可欠なのである。
(K)

『環境緑化新聞』((株)インタラクション) 2003. 10. 1
多様な試みを続けるEUの都市再生政策
 2002年7月に閣議決定された都市再生基本方針では、「21世紀の都市」について、急速な社会経済情勢の変化に対応し、その魅力と国際競争力を高めることを意義としている。また、人と自然との共生、快適で活力に満ちあふれた都市への再生、地震対策、慢性的交通渋滞の解消、国際競争力のある世界都市、持続発展可能な社会の実現などの「21世紀の新しい都市創造」に取組むことを掲げている。ようやく都市再生へ足を踏み出した日本にとって、環境先進国とよばれるヨーロッパ・EU地域に学ぶことは多い。
 本書は、スペインに在住経験のある建築家・岡部明子氏が、その経験から興味を持ち研究を進めたEUの都市再生への地域戦略を紹介している。冒頭で著者は、都市再生の原動力となるのは、人間の生活が立ち行かなくなってきているという危機感の共有だと述べ、その例として、スペイン・ビルバオの都市再生をあげている。かつて失業率30%という危機的状況に陥ったビルバオは、都市再生の原動力としてグッゲンハイム美術館を建設した。それによってもたらされた経済効果は、地域の活性化を促し、文化的都市再生を実現させた。その他、多種多様な試みを続けるEU地域を詳述しつつ、日本の状況とも照らし合わせ、都市再生について検証している。
 北部と南部で都市環境への意識が異なるという難題を抱えながらも、前進を続けるEUの地域・環境政策は、寛容的かつ多様性に富んでおり、日本だけでなく、世界の中で貴重な手本となるに違いない。

『京都民報』((株)京都民報社) 2003. 10. 19
南欧の視点によるEUの都市・地域戦略
 「都市再生事業」だの「都市計画特区」だの、小泉内閣の新自由主義的な都市政策・都市計画が跋扈(ばっこ)する最近の日本で、出来るだけ多くの人に読んでほしい本の一つである。
 著者、岡部明子さんはメキシコ生まれでスペイン語が堪能な帰国子女。それでいて東大建築学科で建築デザインを学んだ才色兼備の女性建築家である。
 本書の最大の特徴は、これまで主として北欧(大陸系)の視点から紹介されてきたEUの都市・地域戦略を、スペインのバルセロナを拠点に建築活動に携わった著者が、南欧(ラテン系)の視点からEUの地域・環境戦略を論じた点にある。
 「サステイナブル」とはもともと分かりにくい言葉である。日本語では「持続可能な」と訳されているが、人によって解釈は微妙に(ときには大きく)異なる。ところが、このキーワードがいったん流行するやいなやマニュアル化が始まり、「サステイナブルシティ」に関する都市計画メニューや数値目標が一人歩きを始める。本質を理解しないままに、である。
 本書は、EUという国境を超えた地域・環境政策のコアコンセプトでありながら、各国・各地域によって多様な解釈と展開がゆるされている「サステイナビリティ」を、豊富な文献研究と実体験の裏付けでもって論述した好著である。
 雑誌論文をもとに編集したせいか、高度で深遠な内容でありながら文章も説得的で分かりやすい。著者の若くして優れた力量に心から拍手を送りたい。
(龍谷大学教授/広原盛明)