「欧州サステイナブル都市最終報告書」概要版/都市環境専門家グループ

 European Sustainable Cities Final Report (1996) Executive Summary
/Expert Group on the Urban Environment


<都市環境専門家グループ>
 都市環境専門家グループは1991年、都市環境緑書の公表を受けて欧州委員会により設置された。本グループは独立した組織で、加盟国代表と、どの組織にも属さない専門家によって構成されている。専門家グループに付託された事項は、緑書に示された閣僚評議会の決定により下記の通りである。
・将来の都市計画および土地利用計画の戦略に、環境に関する課題をどのように織り込むことができるかについて考察する
・欧州委員会がEUの環境政策の枠組みの中でどのように都市環境の領域を展開することができるかについて提言する
・EUが都市環境の改善に一層貢献するための方策を検討する
 いま、主要な環境政策をめぐる議論は、サステイナブル開発、とりわけサステイナブル都市開発に焦点がある。専門家グループは、サステイナブル都市プロジェクトを通じてこれらの議論に貢献する。

<サステイナブル都市プロジェクト>
 環境アジェンダ(協議事項)の領域が広がっているという認識を踏まえ、1993年、専門家グループは、1993-96年を期間とするサステイナブル都市プロジェクトの第1期を立ち上げた。プロジェクトの主要目標は以下の通りである。
・欧州諸都市が置かれた状況の中で、サステイナビリティについての考え方を発展させることに貢献する
・これまでの経験を幅広く交換し合う土壌を育てる
・地方レベルでサステイナビリティの優れた実践事例を普及させ、しっかり腰を据えた取り組みとする
・1991年の評議会決定で求められたように、EU、加盟国、地域そして地方のそれぞれのレベルの政策に影響を及ぼす提言を作成する
 本報告書は、サステイナブル都市プロジェクトの主要な成果であり、1996年10月にリスボン(ポルトガル)で開催される第2回サステイナブル都市欧州会議に向けての重要な予備文書となる。サステイナブル都市プロジェクトのほかの成果としては、以下のものがある。「優れた実践事例ガイド(Good Practice Guide)」、EGPIS(European Good Practice Information System)、特定の目標グループを対象にした「ターゲット別報告概要」、そして個々の加盟国のニーズに応じたプロジェクト普及会議の開催などである。1994年5月、第1回サステイナブル都市欧州会議がオールボー(デンマーク)で開催中に欧州サステイナブル都市キャンペーンがスタートし、情報と経験の交換が一層促進されるようになっている。加えてネットワーク型パートナー(CEMR、Eurocities、ICLEI、UTO、WHO)が都市間の情報および経験の共有に、あるいは地方レベルでの実験的/模範的プロジェクトに基づいた助言活動などに、積極的にかかわっている。

<欧州サステイナブル都市報告書>
 欧州サステイナブル都市報告書は、サステイナビリティの概念を都市地域に適用することに焦点を合わせている。報告書の表題は欧州サステイナブル都市報告書となっているが、都市だけではなく、都市中心部から郊外、小さな町までの、いろいろな階位の都市化社会についても取り扱っている。本報告書はまた、都市地域と都市システム全体のサステイナビリティの問題を扱っている。専門家グループの見解によれば、それらのことを追求するのに必要なサステイナブル開発の原則とそのメカニズムは、あらゆる階位の都市化社会に適用可能である。しかし、ここでの焦点は、都市レベルにある。
 本報告書は、環境面と同時に制度的側面にも焦点を合わせている。地方政府がサステイナビリティに取り組む能力にも関心を寄せている。(サステイナビリティに関わる)優れた普遍的なマネジメント事例がますます欧州の地方政府らしさを示す特徴になってきている。本報告書は、そのことを活用することの重要性についても認識している。サステイナビリティへの取り組は、既存の政策や組織機構に対する新鮮なモノの見方や、環境に配慮した行動をするときに依拠できるしっかりした一連の行動原則を必要としている。
本報告書は、幅広い読者層を想定している。首長や議員、自治体の幹部・職員、都市環境の専門家などは、サステイナビリティ都市マネジメントで重要な役割を担っている。しかしまた、取り組みが成功するかは、地域コミュニティーの積極的な関与と、あらゆるレベルにおいて強力で頼りになる政府組織のその枠組みの範囲で民間およびボランティア部門とパートナーシップを形成できるかにかかっている。政治的なリーダーシップとその関与なくして前進はあり得ない。

<ローカル・アクションの領域>
 部分的には、加盟国によってそれぞれの階位の地方政府に付与された責任が違っていることを反映し、都市環境の取り組みに対する法的、組織的な拠りどころも、加盟国の間で明らかに違っている。さらに都市は地理的条件も異なっている。本報告書は、あらゆる都市に適用可能な一般的な解決法を提示するものではない。そうではなくて、本報告書が提唱しているのは、都市が地方民主主義の伝統や優れたマネジメント、そして専門知識を生かしつつ、それぞれの地方の状況に適した革新的なアプローチ(問題解決法)を見出すことができる――その支えとなる枠組みを用意することである。
 責任と権限がいかなるものであれ、全欧の地方政府は既に、その多岐にわたる役割を遂行することによってサステイナビリティの目標を前進させうる有利な立場にある。
地方自治体は直接、間接のサービス供給者であり、規制当局であり、たとえばリーダーであり、あるいはコミュニティー情報の提供者、呼びかけ人、アドバイザー、パートナー、地域資源の動員者、討論や議論の先導者の立場にいる。それゆえに、その地方の環境をサステイナブル・マネジメントする際に、いろいろなレベルにまたがる共同戦略を構築するのに最もふさわしい立場にいる。そうした地方政府の行動は、地球規模でのサステイナビリティへの取り組みを力強いものとし、より完全なものとする。
 サステイナブル開発の目標には、衝突し合う課題をめぐって重大な選択をすることや、コミュニティーでの暮らしに大きな変化を引き起こすことなどが含まれているが、それを上から一方的に押し付けることはできない。地方コミュニティーの参加と関与によって成就されなければならない。サステイナブル開発に至るそれぞれの道筋は、地方レベルで考え出されなければならない。
 天然資源から廃棄物や汚染物質への直線的な流れを、エコシステムの循環系の、自己調整型の流れに転換させること――地方自治体の役割は、それを確実に遂行するローカル・エコシステムのマネジャー役でなければならない。

<サステイナブル都市に好ましい条件>
 本報告書の第2章では、国際的なレベル、欧州および加盟国、そして地方レベルでの政策展開の進捗状況について考察している。いまは欧州都市にとって、国際的な取り組みで重要な役割を担いながら行動をおこす好機である。
1991年以来、EUは、環境保護の取り組みを強化するために尽力してきた。環境政策は、サステイナブル開発の課題を前進させる方向に政策転換されてきた。都市レベルでの環境政策の形成および取り組みに対しては、EU法が確固たる裏づけを与えてきた。マーストリヒト条約は、主要な政策目標のひとつとしてサステイナブルな成長の促進をうたっている。また、ほかの政策に環境保護を織り込むことを明白に求めている。1993−2000年の環境アジェンダを決めた第5次環境行動計画は、対症療法にとどまらず、むしろ環境問題の根本的な原因を探ろうとしている。同計画は、トップダウン方式によるアプローチよりは、連帯し、責任を分担する考え方を重視している。
 都市マネジメントのアプローチ法を考えるときに、欧州都市はまた、豊富に集積されてきた国際的経験や取り組みに学ぶことができる。1992年6月の地球環境サミットでECと全加盟国は、気候変動と生物多様性に関する議定書に調印し、アジェンダ21――地方政府が極めて重要な役割を演じることになるサステイナブル開発のための地球規模のアクションプラン――にも深く関わることになった。都市でサステイナブル開発に取り組むときに必要となる適切なメカニズムや手段については、国際的なプロジェクトやアジェンダ21などの経験を通じて一定のコンセンサスが形成されつつある。
さらに加盟国内の政策体系も、地方政府レベルでのサステイナビリティへの取り組みを一段と支援する方向にある。しかし、国のサステイナビリティに向けての戦略は、必ずしもはっきり都市を意識したものとはなっていない。サステイナブル開発戦略に取り組んでいる国々においても、都市政策がサステイナビリティの目標を明確にはもってはいない。それゆえに目標を設定し、都市地域におけるサステイナビリティの達成度を評価し、モニタリングするときに使用できるような、ワンセットの明瞭な原則を定めておくことが必要となる。それらの諸原則は、以下に記述する通りである。

<都市マネジメントの原則>
 サステイナブル開発は、それがはっきりした形で計画されたときのみ、実現される。市場の力や、無自覚的で定かな方向性を持たないような事象は、サステイナビリティを危うくする深刻な問題を解決することはできない。
広範囲の問題を一括して検討する、問題の優先順位についてはっきりした決定を下す、同時に既定の課題を達成するために個々の政策対象と結び付けて管理とインセンティブ、そして動機づけの長期的な枠組みを構築する――アジェンダ21は、そうした取り組みについて総合的な手法を定めている。
 サステイナブル都市マネジメントの手法は、政策統合に必要な土台を整えるために、環境、社会、そして経済的問題を取り扱う一連の政策手段を必要としている。多様な政策手段がある――環境、社会、経済に関する都市マネジメントの課題を別々に扱う政策手段がある一方、これらの課題を結び付けようとする政策手段がある。本章では、都市マネジメント手法に利用できる環境政策手段に焦点を合わせている。
 5つの主な環境政策手段群が提唱されている。協力と連携、政策統合、市場メカニズム、情報マネジメント、そして評価とモニタリングである。それぞれの政策手段は、サステイナブル都市マネジメントの統合システムにとって基本的な構成要件と考えられている。これらの政策手段をどう使い、組み合わせるかに定石はない。すなわち、サステイナビリティに歩を進めるのにはいく通りもの道筋がある。加盟各国、各都市によってよって制度面、環境面の文脈が違っており、それぞれに独自のアプローチが必要となる。最終的な目標は統合された都市マネジメント手法を確立することにあるが、都市マネジメント手法を構成する要件は、いろいろな利害関係者の相互のやり取りを通じてより良いものに改善されていくものである。
 これらの政策手段の取り扱いと利用を通じて、現在欧州域内で行われているのに比べてもっと広く、積極的な政府の、特に地方政府の役割評価を行うことが必要となる。サステイナビリティ・マネジメントは、本質的には都市のガバナンス(統治)に影響を及ぼす政治的な取り組みである。この報告書で提唱されている政策手段は、思惑に基づく同業者仲間の取引やマーケットの動きを修正し、市場外から設定したサステイナビリティ目標の範囲にそれらの動を制限しようとするものである。これらの政策手段を取り入れることによって、サステイナビリティのための都市政策形成は、恐らくこれまで一般的に認識されていたものよりもはるかに広い範囲を対象とし、強力かつ野心的なものとなるだろう。
もしひとびとが啓発され、自分たちの選択の結果について正確な情報提供がなされるならば、民主的選択の政治プロセスを踏むことによって、サステイナビリティ目標とそれを達成するための手段を合法化することができる。サステイナビリティを危うくする多くの問題は、ひとびとが自分たちの自由を制約することを受容するときにのみ、唯一解決可能である。これらの制約は、影響を受けるひとびとがその選択をするか、少なくても容認するときのみ受け入れられる。もっと福利厚生を高めるためにはひとりひとりが自分たちの行動に集団的制約を課すことを自主的に受け入れる、そのことを通して市民社会が形成さる――と考える政治学の「社会契約」モデルには、サステイナブル都市マネジメントの解法が含まれているかもしれない。

<政策統合の原則>
第5次環境行動計画で中心的な要件となっている連携と統合は、責任のシェア(分かち合い)という寛容な考え方と補完性の原則を結びつけることによって達成される。専門家グループは、欧州サステイナブル都市報告書で提起された提言について詳述し、政治的、組織的な取り組みで水平/垂直的統合を促進するように求めている。
 水平的統合は、サステイナビリティの社会的、環境的、あるいは経済的な統合を通じてシナジー(それぞれの働きが全体によい効果を生む)を実現するために、すなわちサステイナビリティへの取り組みを刺激するために必要である。水平的統合では、都市間、地域と国の機関、そしてEU内――それぞれの政策分野間での統合が必要である。政策分野間、あるいはセクター間で統合に向かう動きは既に始まっている。しかし、専門領域を超えて働く専門家の能力と経験をさらに開発し、自分の専門以外の政策分野やセクターについて理解を深めることが必要である。それゆえに、専門教育とトレーニング・プログラムは、分野を超えて働く仕事が求める、もっと広義の内容を提供できるように手直しされなければならない。
 EUと加盟国、そして地域、地方政府のあらゆるレベルを縦断して垂直統合することが同じように大事である。垂直統合によって政策と行動をしっかり結び付けることができれば、地方レベルでのサステイナビリティの展開が加盟国政府やEUによる決定や行動によって弱体化されるようなことがなくなる。

<エコシステム思想の原則>
 エコシステム思想は、都市というものは絶えざる変化と発展のさなかにある複雑系である、という考え方を力説している。エコシステム思想は、ひとびとが能力を発揮する余地や多様性をどう展開するかなどのソフト面と同じように、エネルギー、自然資源、廃棄物の発生などの物質面も流れのあるもの(フロー)として、あるいは連鎖したものとして捉えている。そうした流れや連鎖を維持し、再生し、刺激し、そして閉鎖することがサステイナブル開発につながる。交通や輸送規制などはそのひとつの事例であり、エコシステム思想の大切な要件となっている。エコシステム思想の物質的な側面を分析すると、都市サステイナビリティの基本原則である2元的ネットワーク対応に帰着する。
 2元的ネットワーク対応は、水系の循環的ネットワークと社会基盤系ネットワークのふた通りのネットワークから成り立っており、エコシステム思想の諸原則に立脚し、地域及び地方での都市開発の枠組みを備えている。これは生態学的に触発された計画策定法であり、社会基盤系ネットワークについては、ビジネスやオフィス仕事、大衆レジャー、農業など高度にダイナミックな用途に対して政策誘導効果を発揮すると考えられている。一方、水系ネットワークの場合は、水の回収や自然ののんびりしたレクレーションなど低度のダイナミックな用途に影響を及ぼす。水系ネットワークは生態学的な枠組みに発展する余地があるのに対し、社会基盤系ネットワークは交通を中心として都市のノード(接続中継点)を決め、居住区の境界を定めることができる。2系のネットワークを結び付けることによって都市開発を誘導し、いろいろな都市的用途の立地を確定するための枠組みを得ることができる。

<協力と連携の原則>
 いろいろな階層と組織、そして利害関係者間の協力と連携は、サステイナブルへの取り組みにとって重要な要件となっている。協力と連携によって、それぞれの組織や機関が広範囲の市民の利益からかけ離れたところで自分たちだけのアジェンダを追求しがちになるのを抑えることになる。第5次環境行動計画が提起したように、責任のシェアの原則に沿って幅広い活動主体と機関が共同行動を起こすときのみ、大方の問題は解決しうるのである。
 サステイナブル都市プロジェクトは、「実践に学ぶ」ことの大切さを強調している。意思決定やマネジメントに参加することは、組織や個々人がお互いに向上し合うプロセスに携わるということを意味している。サステイナブル都市マネジメントを学びのプロセスと考えれば、サステイナビリティに向けて最初の一歩を踏み出したときの主張の正しさを補強し、実験の大事さを際立たせることにもなる。都市同士が経験をシェアすることを通して多くのことを学ぶことができる。
この報告書では特に、2つの領域の連携を奨励している。第1は地方自治体の運営に焦点がある。それには専門教育やトレーニング、専門領域を超えて働くこと、パートナーシップやネットワークなどが含まれている。パートナーシップとネットワークには、都市とそのほかのネットワークだけではなく、官民のパートナーシップや非政府組織の参画が含まれている。第2の分野は、地方自治体とコミュニティーの関係に焦点がある。コミュニティー協議と参加、コミュニティー啓発のための革新的なメカニズム、そして問題の認知度を向上させることなどが含まれている。連携の形がいかなるものであれ、従来からの働き方に変革が求められるし、それまでのやり方を改める革新的なアプローチをしなければならなくなる、ということを意味している。
 カギとなる目標は、連携とパートナーシップがはじまる条件を創り出すことである。このことは、連携が活動主体の間の理解と責任感を増進し、活動主体間の階層化よりもヨコ並びの関係を強化することにつながるという事実に加え、上記の理由のためにも大切なのである。

<サステイナブル都市マネジメント>
 これまでに述べてきた諸原則に示したが、都市マネジメントの総体的な取り扱みについては本報告書の第3章で検討している。そこではサステイナビリティとの関係の中で都市の役割を問題にし、ワンセットの政策選択の原則を示している。それぞれの地方の状況の中でサステイナビリティへの取組みをするときに、都市がそれぞれの好みに応じて使える政策メカニズムと手段を提案している。同時にこれらの原則と取り組みは、都市環境マネジメントに対してこれまでやられてきたよりももっと戦略的で統合された参加型問題解決法を提言している。
 第3章が問題にしているように、サステイナブル開発は環境保護よりもはるかに広い概念である。サステイナブル開発は、経済、社会、文化の領域を含み、現在生きているひとびとと同時に、世代間での公平の概念を包摂している。都市のサステイナビリティへの挑戦は、都市それ自体が多くの潜在的な問題解決法をもっていることを認識しながら、都市が直面している問題、都市が引き起こす問題の双方を解決することである。市当局幹部は、地方、地域、そして地球規模の自然システムに配慮し、問題をほかの地域や次世代に転化してしまうようなことはせずに、どこか可能なローカルレベルで問題を解決しながら、都市住民の社会的、経済的、文化的必要に応えるようにしなければならない。
 都市のサステイナビリティにエコシステムの考え方でアプローチするとき、組織マネジメントのあり方とかかわりが生ずる。そのことはまた、問題を総体的に取り扱うことのできる組織形態や行政システムへの見直しを意味している。それゆえに必要なことは、サステイナブル開発を追求する際に最も適した問題解決法を誘導する助けとなる、核心的な組織原理の定義である。エコシステムの比喩的表現、サステイナブル開発の目標値などを引き合いに出しながら、統合や連携についての、あるいは物事のバランスが取れていることや補完性、そしてシナジーなどについての諸原則を提唱している。
 第3章では、地方の環境政策を形成し、統合し、実施するための一連の政策手段について熟考している。市全域を対象とする政策のフレームワークと行動計画の枠内でこれらの政策手段を採用し、それを通じてサステイナブル都市マネジメントの円滑な取り組みをすることになる。その際、政策目標や責務、行動日程を明記している環境憲章や戦略にしたがって政策を遂行することになる。政策手段の第2群は、連携とパートナーシップにかかわっている。政策手段の第3群は、サステイナビリティの要請に沿うように市場メカニズムや価格指標を制御することに関係している。環境問題の取り組みに関連して考え出された既存の政策手段を再評価し、経済、文化、社会のサステイナビリティ領域も取り扱えるように拡充することが必要となる。
 サステイナビリティの達成度は、指標や目標値を使いながら評価することができる。指標は多くのことを提供してくれるが、その使い方は簡単ではない。たとえば、測定の容易さと政策の重要性の間には緊張関係がある。これまでのところ職場でサステイナビリティを示す指標が重要視されてきたが、物理的なサステイナビリティと社会福祉を調和させるためには、もっとサステイナブルなライフスタイルの選択、それへの順応性を示す指標が大切となってくる。
都市は政治的な取り組みを通じて政治及び市民の支持を取り付け、既に紹介した手法を取り入れることになる。民主主義と新しい形の市民参加の重要性、パートナーシップと多様性、そして実験の必要性について特に留意すべきである。
 本報告書は、サステイナブル都市マネジメントを、市全域を対象に戦略展開することを強く提唱している。しかし、サステイナブル都市プロジェクトでは、一連の重要政策分野でもこのやり方を踏襲することを検討している。最終的には、政策分野自体の横断的統合を円滑に進めることが目標にならなければならない。本報告書で優先順位の高いものとして選ばれた政策分野は、自然資源のマネジメント、社会経済問題、アクセシビリティー(利用可能なこと)、そして空間計画であり、それぞれ第4、5、6、7章で扱っている。

<自然資源のサステイナブル・マネジメント>
 第4章で扱っているように、自然システムは資源と廃棄物を内部的に循環させることによって均衡が維持されていると考えられている。都市システムもそれになぞられる。自然システムと都市システムの機能の違いは、都市システムが自然資源やエネルギーを都市に取り入れ、廃棄物や汚染物質を都市周辺地域に持ち出すというやり方に依存していることである。都市は、エネルギー供給で自然資源が経済的に使われ、使われなくなった資源が再利用され、リサイクルされ、循環過程に再投入されるように加工される――そうした閉鎖型システムというよりは、むしろ高度に、他に依存型の開放型システムとなっている。都市は、自然資源やエネルギーの確保、あるいは廃棄物の処分で周辺地域に依存し、問題を押し付けている。いずれ社会的、経済的、環境的に重大な問題につながる自然資源の浪費、そして公害と環境の劣化は、都市システムのみならず農村部のひとびとにも影響を及している。もっとサステイナブルに都市システムを機能させるためには、自然システムが循環型マネジメントについて教えるところに学び、それを活用する都市マネジメントへの取り組みが必要となる。
 自然資源、エネルギー、廃棄物の流れを閉鎖型にするための一連の取り組みは、都市内部で行われなければならない。そうした取り組みには、以下の課題がある。すなわち、自然資源、特に再生不可能な、あるいは再生に時間のかかる自然資源の消費を最小限にすることのほか、どこかできるところで再利用かリサイクルをして廃棄物の排出をできる限り少なくすること、大気や土壌、水も汚染を最小限にすること、都市で自然地域の占める割合や生物多様性などを増大させること――などである。これらの課題は小規模レベルで達成することのほうがおうおうにして簡単である。より強化されたサステイナブル政策を都市システムに導入するうえで、地方の生態学的循環システムが理想的なものとなるのもそのためである。しかし、どこで循環システムを閉鎖させるのが理想か、その適正レベルについては決まったものはなく、状況に応じて近隣レベル、都市あるいは地域レベルで考えることになる。
 自然資源、エネルギー、そして廃棄物の問題は、密接に関係しあっている。都市はエネルギーが高度に集中しているところであり、エネルギーが都市システムを機能させるのにますます重要な役割を果たすようになっている。消費されるエネルギーが大きくなるほど、エネルギー生産を支えるのに必要な自然資源に対するニーズが大きくなる。同様に、自然資源やエネルギーの消費量が高まれば、その分、廃棄物の蓄積も多くなる。こうした相互関係のゆえに、幾つかの関連した政策を組み合わせることによって効力増強効果が発揮される、という考え方には説得力がある。したがって政策の組み合わせによって、ある特定の問題を解決するのみならず、ほかのもっと多くの問題を同時に解決できるかもしれない。
 大気についてのサステイナブル・マネジメンの最終目標は、きれいで十分な量の空気を確保することである。土壌や動植物群に関しては、一般的には、自然域の、あるいは人工のエコシステム域の割合を都市域内で増やすことが目標となる。水についてのサステイナブル・マネジメントの原則は、水保全と、水に関連した自然システムの働きへの影響を最小限にすること――などに関係している。サステイナブルなエネルギー・マネジメントの基本的な目標は、エネルギーの保全にある。エネルギー保全のカギは、ひとりひとりが、あるいは組織がどういう行動をとるかにかかっている。しかし同時に、エネルギーの生産や配給にもかかわっている。廃棄物をエネルギー生産に活用するいろいろなタイプの問題解決法があるが、それらは自然資源を保全し、廃棄物を有効に使うという2重の目的に寄与する。しかし、サステイナブルな廃棄物マネジメントの究極の目標は、廃棄物の排出量を最小限にすることである。
 教育や情報提供、そして実践の提示などを通じてひとびとの行動に影響力を発揮することがさらにサステイナブルな都市システムを達成する際に重要な要件となる。EU、加盟国、地域、地方政府は、そのことを心に留めておくべきである。ひとびとの行動に影響力を発揮することと、自然資源のサステイナブル・マネジメントとの関係は、とりわけ明瞭である。ひとびとがどう行動するかがサステイナビリティの水準に直接影響し、ひとびとが行動を変えたときの結果を明快かつ簡単に理解できるところでもある。

<サステイナビリティの社会・経済的課題>
 第5章では、欧州で、あるいはグローバル経済で都市が担う役割の重要性を強調し、社会経済的問題をサステイナビリティと結びつけながら国際的な文脈の中に欧州都市を位置付けている。
欧州の都市システムにおける人口移動と経済のリストラクチャリングの動きは、都市にいろいろな影響を及ぼしてきた。欧州単一市場政策を通じての経済統合の大きな動き、中・東欧の発展、そして新加盟国の増加によるEUの拡大は、経済活動、社会構造、都市環境に計り知れない影響を与えてきた。
 第5次環境都市計画は、サステイナブル開発を達成するための経済施策の活用について言及し、5つの施策対象部門のうちのひとつとして産業を取り上げている。5.1節では、この領域で地方政府がどういう取り組みができるかについての潜在的可能性を検討している。地方経済を環境指向に向かわせるということ(greening)は、新しい形の取り組みを考え出すだけではなく、従来からの政策アプローチにもサステイナビリティの目標を組み込むことを意味している。
地方企業がもっと環境指向になるのを都市がどの程度まで支援できるかは、市場経済の動きに大きく制約される。したがってEUや加盟国は、企業がもっと環境にやさしいやり方で操業しても利益を稼げる条件を創り出さなければいけない。こうしたことは、積極的な経済運営によって促進されることが大切である。サステイナブルな企業成長のための取り組みは、規制政策、関税制度、誘導策、製品規格、そして長期の投資制度などによって前進させることができるだろう。
 地域や地方自治体に対しては、環境施策を通じて雇用創出する方法を考案し、既存のビジネスがもっと環境指向のやり方をするのを推奨し、エコシステム・アプローチの産業によって取って代わられるように支援することが求められている。
 第5次環境行動計画に沿って地方労働市場について検討し、コミュニティー依拠型政策誘導の対象域を吟味することなどを通じて環境指向の経済開発を社会のサステイナビリティ問題に結びつける――そうした取り組みが求められている。
 5.2節では、サステイナビリティの社会的側面について扱っている。環境上の、あるいは社会的なリスクを無視し、物質的な富の蓄積に専心することが最近の傾向になってきている。社会的な側面からは、貧困層と裕福な市民が同じ程度にリスクを担っているかどうかが大切な問題となる。基本的な問題は、リスク社会(リスクの被り方に格差がある社会)が階級社会に取って代わるのか、あるいはリスク社会が現在の階級社会に統合されるのかにある。富とリスクのあり様は、加盟国間で、加盟国の地域ごとに、また地域の都市間で、そして都市内でも違っている。
 これらの傾向に対峙するためには、経済システムの基盤と同時に社会の基本的な価値観に変化を起こさなければならない。政治家や市民の行動とライフスタイルに転換が求められるようになる。将来世代の福祉も考えなければならなくなる。すなわち、コミュニティー、所有権、責任と市民参加などとの関係において、個人の価値観が変化することが必要となるだろう。
 基本的なサービスとアメニティー、教育と訓練、健康管理、住宅と雇用に関する権利を享受できること――それらがひとびとの福祉の基礎と、平等と社会的統合を向上させるための基盤を形成する。
最後に、この章では、経済的かつ社会的サステイナビリティを空間計画や交通システムに関連した問題から切り離しては考えることができないことを指摘している。

<サステイナブル・アクセシビリティー(利用可能なこと)>
 都市のサステイナブル・アクセシビリティーを達成することは、都市環境の全体的な改善や都市の経済的成長力の維持にとって大事な一歩となる。
 都市がどう機能するか、そこにおけるアクセシビリティー一般の重要性と、今後も交通量の突出した増大が続くことに関連した問題とが第6章で検討されている。最近の利用可能な研究成果を引用しながら、交通特有の諸問題――交通渋滞や安全性、そして交通関連の活動によって占領されている空間と都市全体の公共空間とのバランス問題――などといっしょに、それに関連した環境問題、健康関連問題、そして社会問題などが再検討されている。
 環境と交通の課題を達成するためには、交通と環境と空間計画を結ぶ一貫した取り組みが必要である。しかしどちらかといえば、十分に統合されたシステムをもっている都市はほとんどない。主にこの分野でのサステイナビリティへの取り組みは、当面、特に自家用車から公共交通への、またそれほど多くはないが自転車や徒歩への、モーダル・シフト(交通手段の変更)を促すことである。それによって道路交通量とその混雑を削減する。これらの取り組みは大切ではあるが、それだけではサステイナビリティの手段とはならない。
 サステイナブルな都市アクセシビリティーを達成するためには、単に移動ではなくてアクセシビリティーの改善に狙いを定めた政策に沿ってサステイナビリティの達成値と指標を開発することが必要となる。さらには目標を設定してモニタリングする。アクセシビリティーと経済開発、環境課題は、都市の交通政策の最重要課題である。
白書の「共通交通政策」、それを受けた緑書「公正にして効率的な交通価格制政策にむけて」、そして緑書「市民の交通網――欧州において公共交通の可能性を達成すること」などの発行によって、欧州レベルではモビリティーと交通手段のための優れた政策の枠組みが確立されてきた。EU、加盟国、地域や地方政府はいまや、エネルギー消費、およびクルマ移動によって引き起こされる環境面や社会的な影響を最小限に押さえ込む交通政策を展開しなければならない。
 交通政策を立案するにあたっては、あらゆる環境課題――たとえば土地占有、騒音、眺望妨害、そして長い目ではサステイナビリティのあらゆる課題を包括する目標値を設定しなければならない。これらの目標値は、評価と資金配分のメカニズムに織り込むことができる。
 いろいろな交通手段を評価するためには、環境への影響を含めてあらゆる利益対費用を効果的に勘定する公正なシステムが必要である。移動時間を最小にすることをねらいとする政策を強調し続けるよりは、むしろ移動ニーズを減らすための政策の展開が肝要となる。
 自家用車に対して公共交通を優先する施策との組み合わせがない限り、公共交通に投資しても問題解決にはつながらないだろう。交通手段の間で競争するよりは、補い合うように仕組まれた統合型マルチモーダル(多様な交通手段を利用できる)都市交通システムが必要である。
 都市の一部地域へのクルマのアクセス規制を含むTDM(交通需要管理システム)や規制色の強い駐車場施策は、クルマの代替交通手段を確保する施策といっしょに実施されなければならない。さもなければ、これらの規制はクルマでしかアクセスできない地域にビジネスや小売業を移動させるだけかもしれない。

<空間計画>
 空間計画、都市再生と都市文化遺産、レジャーと観光につては第7章で問題にしている。空間計画制度は、都市全域対象のサステイナブル開発政策を実施するうえで重要である。都市の土地利用政策とその実施提言を考えるにあたって専門家グループは、地方が抱える問題とその解決法の多様を理解している。特に生態学に依拠したアプローチと、狭い範囲での土地利用にこだわることがないようにすること――そうしたことによって既存の空間計画制度を強化することを求めている。提言された問題解決法は、あらゆる都市の置かれた状況下で採用できると考えられている。たとえば歴史のある都市中心部でも、郊外でも、あるいは新興住宅地でもよい、
 前の章で概説したサステイナビリティの幾つかの原則とメカニズムは、空間計画に既に含まれている。しかし政策や実践面で、サステイナビリティ課題の認知度と優先度のさらなる向上を達成するためには、(原則とメカニズムの)一段と有効な活用法を探す取り組みが必要である。第7章は特に、環境と空間計画の統合、そして計画立案の早い段階で環境課題を見極められる方法、そして都市マネジメント分野での目標値と指標の活用、改良された形での計画への市民参加、さらには空間計画とローカル・アジェンダ21の取り組みを結び付けること――などについて検討している。
 都市レベルで準備された空間計画が地域や国の環境政策の枠組みに収まるように、加盟国は空間計画の首尾一貫したフレームワークを用意するようにしなければならない。そのような全体を覆うような枠組みがないところでは、加盟国は、市当局がローカルな解決策を考え出す機会を増やすことを認めるべきである。
 計画策定は、必ずしも環境負荷に対して開発利益を釣り合わせようとするものではない。むしろプランナーは環境許容量を確定し、それが侵害させないようにしなければならない。そのことは、現状、利益がいかなるものであれ、ある種の開発を禁止することを意味するかもしれない。計画策定は「需要先導」であるよりは、「供給制約的」であるべきである。環境許容量に基づくアプローチは、既に幾つかの加盟国で採用されているし、さらに取り組みが強化されるべきである。
計画策定は、課題主導型であるべきである。課題に従って戦略の方向性と、環境の質、経済成長、社会進歩の具体的水準が定められなければならない。空間計画は、それらを通して所期の環境の状態を描き出すべきである。計画には、国と地方発のサステイナビリティに関する目標値が含まれるべきである。さらには計画に従事しながら問題がどの程度のものか、またどの程度解決したか、それを測定するための指標を考え出すことが重要である。
 土地利用計画は、融通性を欠くゾーニング制による用途分割よりは、用途混合を提唱すべきである。現行、ゾーニング制に依拠する空間計画制度は、用途混合をできるようにもっと柔軟性のあるものになる必要があるだろう。「緑の建築」の概念は、あらゆる建設資材を資源配慮型用途にするのみならず、耐久性、転用可能性、用途の多様性を考えた建物設計をするように提起され、敷衍されるべきである。
 移動のニーズを削減するために空間計画は、短期的に成果を得られるような財政措置や、ロード・プライシング、交通騒音対策などの規制手段によって補完されることが必要である。新しく行われる開発は都市全体のストックに比べれば相対的に小さな部分の話なのに対し、都市の形態を左右するような計画制度は長期的なメカニズムの話である。しかし将来的には、もっとラジカルな手法の展開が必要となる。
 重工業及び公益産業のリストラクチャリングは、都市内に大きな空き地、しばしば汚染した土地を残し、都市の空き地や田園地帯での開発圧力を増すことにつながっている。都市産業史のどの時代に比べても大規模に余っている荒廃し汚染した土地を、確実に再利用するために緊急な対応が必要である。以前に開発された土地や、ある場合には建物をリサイクリングすることそれ自体が、資源再利用のサステイナビリティ課題に合致すると考えることができる。加えて土地のリサイクリングはまた、緑地帯の保全、そして田園地帯や空き地、野生動植物の保護に役立つ可能性がある。
 都市再生は、以下の取り組みによってサステイナブル開発の目標を満たすように活用されなければならない。すなわち、住民参加を通じて社会的結束を強化する、一貫したエコシステムの一部分としての生態学的な循環を回復する、生態学的な価値を強化しそれを保存する取り組みをする、そしてもっとサステイナブルな交通形態の実施を通じて既存地域へのアクセシビリティーを改善する――などである。
 汚染土壌の浄化は、多くの都市再生プロジェクトで重要な課題となっている。浄化技術は、しばしば費用のかさむ作業である。汚染浄化を、補助金を必要とする単独事業と考えるべきではない。むしろ一連の財政的に有利な条件に恵まれた政策の、その一部分と考えるべきである。一連の対応策というのは、2つの要件に依拠している。
・再生用地は、都市再生事業が予定されているもっと広い地域の、その文脈に関係させて検討しなければならない
・その用地の将来的な開発可能性については、現状の否定的なイメージに引きずられることなく、都市全体の文脈の中で現実の潜在的可能性を反映させて検討されるべきである。
 上記の2つの要件は、より広い地域を対象としつつ、個々の場所がもつ潜在的な土地の力に配慮するような、そうした開発ビジョンを必要としている。財政的に健全な開発から生じる利益は、汚染浄化費用を調達するために生かされるべきである。開発ビジョンにより広い地域が含まれれば、用地間でクロス補填(不採算分部門を利益の出ている部門が補填する)を実現する可能性が拓ける。これらの諸原則は、サステイナブル開発のより優れた枠組みを作り上げる際にいろいろな計画制度に織り込まれるべきである。
 観光、レジャー、そして文化遺産のための計画策定は、経済、社会、環境、文化問題を扱う国のガイドラインと地域の政策に統合されるべきである。加えて、観光、レジャー、そして文化遺産の問題は、空間計画の取り組みで欠くことのできないものである。
 知識と価値と信条の表現である文化遺産は、都市とその住民のアイデンティティーを形成している。都市それ自体が文化的存在であり、文化的価値といろいろなライフスタイルを伴ったいろいろな場所の集合体である。文化遺産は、歴史的中心街や新しい中心地、そして後背地などで――したがって結果的にはいろいろな姿で、多くの違った場所に表出している。均衡の取れた都市構造は、歴史的中心街や新しい中心地がそれぞれの中心地の役割を補完し合い、建築的、伝統的価値を備えた既存のまちを守り、維持するような、そうした混合用途制を支援するように創られるべきである。
 文化、環境政策では、長期の計画策定を求められる。プランナーと政策決定者は、短期の利益にとらわれて長期の課題達成の機会を減らすような、そうした計画手続きを避けるべきである。
 レジャーと観光活動は、都市の文化遺産の質に大きな影響を及ぼすことになる。歴史のある都市や特別な建築物をもつ都市は旅行者にとって魅力的で経済的、社会的に望ましい効果をもたらす一方、特に社会や環境面では(観光化などが)都市のサステイナブル開発にとって脅威ともなることもある。

<サステイナブル都市マネジメントへの手がかり>
 欧州サステイナブル都市報告書は、サステイナブル都市を経過途上のものとして捉えている。本報告書は政策内容といっしょに政策メカニズムも重視している。いずれも、地方からほかの地方に優れた実践を移転するときに大切となる。
専門家グループ内部では、都市は一連の状況に適用できるワンセットの政策手段を必要としている複雑系である――という視点に立ち返ってその再評価をしてきた。都市システムは複雑ではあるが、簡潔な解決法、特に同時にひとつ以上の問題を解決する解決法、あるいは幾つかを結びつけて使える解決法を必要としている。
 提案された解決法には、たとえば、
・新旧のアイデアを総合すること
・領域を超えて働くこと、チームワーク、責任の分かち合い、そしてネットワーク――などを促すこと
・心構えやライフスタイルを変えることの重要性について認識すること
・イデオロギーによる規準に基づいてなにか特別な手法を取り入れたり、排除したりするのではなく、目標をシェアするという枠組みの中でむしろ、とらわれのない気持ちで多様な問題解決法を備え、実験に臨むこと
・欧州都市に望まれる社会的、環境的、文化的、そして経済的な質を達成するために、意識的に計画策定とマネジメントに参画すること

<次の段階>
 リスボン会議の後、サステイナブル都市プロジェクトの次の段階では取り組みの優先事項について考えることになる。それには下記のものが含まれる。
・一連のメカニズムを通して本報告書に示された考え方を総合し実行すること
・ほかの成果やネットワークプロジェクトを継続すること
・欧州サステイナブル都市キャンペーンをさらに展開すること
・もっとバランスの取れた評価リサーチプログラムの中で取り組みを評価すること
・南、および中東欧に焦点を合わせること
・欧州都市がアジェンダ21に沿って途上国の都市との連携を強化する方法を考えるために国際機関と対話すること
 サステイナブル都市の取り組みは、創造性と変革にかかわっている。政策手法と同時に政策の中身が問われている。従来の政府の問題対応法に対する挑戦であり、新しい制度的な、組織化する能力と連携が求められている。サステイナビリティの概念はダイナミックで進化しているものである。地方および地球規模で環境に対する理解がもっと洗練され、ひとびとに共有されるようになるのとあわせて、時を超えて変化するものである。このダイナミックな取り組みがサステイナブル都市プロジェクトとして洗練され、強化されるために、本報告書とその提言が寄与することを望む。