アメリカの住宅地開発

ガーデンシティからサスティナブル・コミュニティへ


あとがき

著者を代表して 戸谷英世

 資産価値の高まる住宅地をどうしたらつくれるかという課題を、二〇年近く追い掛けてきた。分ったことは、そのためには人々が住みたくなる町でなければならないという当たり前のことだった。ではどうすれば住みたくなるのか。
 住宅地のデザインに人々が誇りが持て、懐かしさが感じられること、住宅が住みやすく、家族のニーズを充たすことができること、そして人々のネットワークや社会的な関係で安全が約束されていることが必要だ。
 学生時代に読んだエンゲルスの「住宅問題」が契機となって、住宅に関係することになった。以来、私にとって、産業革命が都市を公害の町に変え、厳しい住宅問題を惹き起こした英国の住宅への感心が原点でもある。ハワードの提唱したガーデンシティは、実は公害に悩まされた産業革命下の労働者の救出作戦でもあった。本書で取りあげたレッチワースもハムステッドガーデンサバーブも労働者の町として計画されたものだ。
 しかし二つの町は、現代の人々からも高く評価されている。その理由の一つは、ガーデンシティの設計者であるパーカーやアンウィンが、イギリス人の心象風景として人々が懐かしさを感じるピクチャレスクな住宅地開発技術を取り入れ、造形的に優れた住宅地をつくったことにある。
 アメリカでも戦後の住宅地開発は、伝統や歴史の拘束から逃れ、太陽と緑あふれる開発に走った。しかし、その半世紀の歴史はどうだったか。郊外への開発は都市の衰退をもたらし、住宅地としても人々の生活を真に豊かにするものではなかった。郊外の一戸建住宅地は、犯罪に弱く、自動車に過度に依存した町は人にも地球にも厳しいものだったのだ。 DPZの取り組みは、このような郊外一戸建てへの批判を受けて、新しい住宅地のあり方をさぐったものである。彼らは過去から現代までにつくられた町のうち、現代の人びとはどのような町に住みたいと願っているか、どんな町が住んでいる人々の満足感が高いかに評価基準を求めた。
 本書はこのようにして始まったTNDの動きを、現地を踏査し、文献で裏付けをとって取りまとめたものである。特にウォルトディズニーによるセレブレイションは、二〇世紀の住宅地開発の総括と評価してもよい事業と私達は考え、大きく取り上げた。
 文章は戸谷が、写真の多くは一緒にアメリカの現地踏査をした成瀬が中心になってまとめた。また本書は学芸出版社の京極社長の御理解があって誕生できた本であるが、編集を担当された前田さん、中木さんの貢献なしには実現できなかった。住宅生産性研究会のスコーリック久美子さん、山田順子さんにも資料作成に協力していただいた。ここに感謝の意を表する次第である。

学芸出版社
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