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歴史ある建物の活かし方

全国各地119の活用事例ガイド



おわりに



 本書は、歴史的な建物の活用の豊かな可能性に触れ、また、活用する際の様々な課題への対処の在り方や、参考となる活用の手法を知ることで、各地で直面している歴史的な建物の保存と活用を巡る課題に対する手掛かりが提供できればとの趣旨から企画された。
 指定等の公的な保護の対象とされている建物であっても、ごく一部の例外を除けば現に何らかのかたちで使われているものばかりである。文化財であるからといって従来の活用の仕方が特段変わることはないし、活用の好例であることはむしろ文化財としての魅力を高めていることにもなる。一方、指定等の公的な保護の対象とされていない一般の建物であっても、継続的に使用するための工夫がなされていたり、建物の価値や魅力を活かしながら他の用途に活用されて、保存の好例として評価されているものも少なくない。
 活用への取り組み方において、歴史的な建物自身の魅力と、活用により醸成される魅力とが相乗的な効果を発揮できるように、当該建物が置かれている現状と課題の中で最大限の努力を払う点で、文化財と一般の建物に根本的な相違があるわけではない。
 活用の内容や方法においては、可能な範囲で公開したり、文化的な役割を担っていくことが文化財に期待されているが、一般の建物においても不特定の人が立ち入る通常の使用形態においてはこのような公共的な性格を帯びていると言えるし、地域の景観を構成する重要な要素としても公共的な使命を果たしていくことが期待されている。
 このように考えると、歴史的な建物の活用の在り方は、文化財であるか否かによる法的な制約の内容や自主的判断によって可能な範囲に違いはあるにしても、活用の基本的な考え方や、具体的な手法において大きな相違があるわけではない。しかし、文化財と一般の建物との相違が強調されたり、関係者の領域を越えた交流が希薄となりがちなために、活用の好例について広く情報を交換し、活用のノウハウを蓄積する機会に恵まれないない現状にある。
 今日、建物のライフサイクルを見直して、持続可能な
都市環境を形成するなど、歴史的な建物を今日的な資産として有効に活用しようとする気運が高まっているにもかかわらず、必要な機能を満たし得ないとか、構造体の安全性に対する懸念などを理由として取り壊しとの結論が導かれがちである。しかし、様々な工夫によって建物が甦る可能性に対する想像力や、ハード・ソフト両面でのノウハウの欠如によって歴史的な建物が失われているならば、所有者、建築家、行政担当者等の関係者の責任は大きいと言わざるを得ない。
文化財を活用しようとする場合、保存修理のみで必要な事業が完結することはむしろ希であり、併せて活用のために必要な整備を必要とすることから、一般の建物における活用のノウハウに学ぶことが必要となる。また、伝統的な木造建築の保存技術は、日常的な修理修繕の技術を活かして発展させたものであり、コンクリート造、鉄骨造へと文化財の保護の対象が広がっている今日、一般の建物で蓄積された修理修繕の技法から学ぶべきことも増えている。
 一方、一般の建物を活用しようとする場合、保存に関する規制がないことから、当事者が備えている保存のノウハウの範囲内での計画にとどまり、活用とはいいながら限りなく新築に近いものとなったり、自己満足に陥りかねない危険性をはらんでいる。保存のノウハウを備えているか否かが活用の成否を左右することになる。活用のノウハウは、保存のノウハウと表裏一体のものである。このため、活用を計画しこれを実現するためには文化財で蓄積されてきた保存のノウハウを学ぶ必要がある。
 しかし、我国の建築教育の現状では、保存と活用の両面に習熟した建築家の育成が立ち後れていることは否めず、歴史的な建物を活用しようとする社会的な要請に対して十分に応えることができない状況にある。垣根を越えた関係者の連携協力が必要とされている。
 本書は、文化財と一般の建物の活用事例を区別せずに織り交ぜたかたちで掲載した。領域間の垣根を取り払った共通の土俵に立つ試みとしてご理解いただきたい。
 末尾ながら、本書出版の機会をいただいた学芸出版社と、編者一同のディスカッションにアドバイスをいただくとともに多大な労を煩わせた同社の前田裕資氏と知念靖広氏に感謝を申し上げたい。
清水真一  


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