都市のリ・デザイン

なぜ都市のリ・デザインなのか?


鳴海邦碩

 都市を巡る課題はますます複雑になってきている。そうしたさまざまな課題は、個別に提示され解説されることが多く、実際のまちづくりの舞台でどのように取り組んで行くべきかがなかなか見えてこない。そのような状況で、〈デザイン〉をキーワードに、諸分野のまちづくり課題を結びつけることを試みたのが本書である。

 デザインは、単に事物を美しく装うことにとどまらない。デザインという概念には、様々な要素の組み立てを構想する、物事に形を与える、といった意味がある。それゆえ、建物を設計することもデザインであり、音楽の編成を構想することもデザインであるということになる。

 欧米では、二一世紀の工学教育として、デザインが重要視される必要があるという。これまでの工学教育は一つの正解を得ることに重点を置いてきたが、それでは創造力の育成に限界があるという認識である。デザインは多様な要素を組み立てることを前提に行われ、その結果には多数の正解がありうると同時に、その中により良いデザインが存在している。そうしたデザインを巡るトレーニングから、創造力が生まれることが期待されている。

 こうして見てくると、まちづくりは人間環境のデザインである、ということに気付いてくると思う。人間環境は、工学的ないし科学的に分析し、システムとして抽象化できる対象ではある。しかし、そこから得られた知識のみでは、実体としての望ましい環境を構築することはできない。なぜなら人間環境を構成する要素は極めて多様であり、かつ、文化的、地域的な存在であるからである。その意味で、望ましい人間環境を形成していくためには、デザインの観点からの取り組みが必要となってくる。

 人間はこれまで、環境の特質を認識し、そこに人間の営為を加えて環境を形成してきたのだが、これをデザインという明確な概念に基づいて行ってきたわけではない。むしろ近年になって、環境をデザインすることの必要性が認識されてきたというのが正確である。

 縦割り行政は相変らず続き、民間にしてもなかなか従来的な仕事の流れから脱却できていない。人材を送り出す大学の仕組みも同じような状況にある。そのような状況下で、新たな環境を巡る課題に取り組んでいくためには、共有できるキーワードが必要であると考えた。それが〈デザイン〉である。

 厳密には、デザインの概念はリ・デザインの概念を含んでいる。なぜなら、対象とする人間環境は歴史的な存在だからである。しかし、再構築とか、再編に意味を持たせ、再びデザインするということを強調するために、ここではリ・デザインという用語を用いている。都市のリノベーション(更新)が大きな課題として認識されている今日、このような概念で都市に取り組むことが重要であると考える。


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