タウンモビリティと賑わいまちづくり


書 評


『ECHO』 76号

 『エコー』では、日本では新しい試みであるタウンモビリティに注目して紹介してきましたが、今回紹介するこの文献では、その導入の意義や事例などを豊富に、そして詳しく紹介しています。

タウンモビリティ事業の広がり

 タウンモビリティの言葉の説明は、『エコー』73号でも紹介しています。この本では、高齢者や障害者など移動に不安を持つ人に、電動スクーターや車いすを貸し出して、商店街や街なかを自由に楽しんでもらおうというものとしています。元気な人にとって何でもない、街なかでの買い物や公共施設利用上での不安を解消するとともに、介護する側の人の負担の緩和につながるものです。
 タウンモビリティ事業は、もともとイギリスで始まったショップモビリティ事業に端を発しています。これはショッピングの場でのバリアフリー化を図る社会システムとして機能してきましたが、バリアフリー、街の活性化、ボランティア活動など、活動の輪がどんどん広がっており、こうした事業の趣旨や実態を踏まえて、日本に適した形で展開しようということでタウンモビリティと名付けられました。
 タウンモビリティは、移動の不自由な人々にとって、街のハードな整備を持たなくても、「足」の代わりとなる乗り物をすぐにでも提供できるシステムです。こうした機械に乗ってしまうと足が弱ってしまうのでは、という懸念もあるようですが、移動への意欲が起こらないために家に閉じこもるなど活動範囲を狭くするよりも、機械を活用して活動範囲を広げ、意欲的に動き回ったり、さまざまな刺激を受ける方が肉体的にも精神的にもよいようです。
 障害者や高齢者が街なかに出て、健常者とのふれあいの機会が増すことにより、心理的にも物理的にも街からバリアを取り除くきっかけができます。また、まちでの滞在時間が延びれば、、消費行動が増大し、行動範囲が拡大すれば、より多くの出会いに恵まれます。そして買ったものを手に提げて歩かなくても済むサービスが消費行動をより積極的にし、市街地の活性化につながっているようです。そうした過程が事例から紹介されています。

だれもが自分で用事を済ませられる環境づくり

 イギリスでの調査によると、駐車場から商店街までの道のりや買い物で外出している間、買った商品を持ち続けていることなどで、多くの障害者が困難を感じており、それが外出を断念する、自分のために多くの人達に多くのことを要求せざるをえないという自責心を感じるといった精神的負担につながってくるようです。導入しないままでは、移動者が、街なかで自分で用事を済ませられるという自信を持てる環境がつくられていないということになります。
 こうしたタウンモビリティの日本での注目度は、電動スクーターの需要が年間2万台程度で、65歳以上の人口の0.1%に過ぎないことからもまだまだですが、この本を読むと、もっと注目されていい、もっと導入が進めばと思われることでしょう。
 ほかにも、イギリスで事業化されている3地区の事例や、日本でも各地で取り組まれているタウンモビリティに関する社会実験の内容やその結果、また、様々な機能が付加されるなど着々と進んでいる電動スクーターや電動車いすの技術革新の様子や、タウンモビリティ導入のケーススタディなども紹介され、実現に向けての課題が端的に整理されています。また、わかりにくい福祉関係のカタカナ言葉などの用語説明が下段に付いていて、より理解を助けるものになっています。
 世界的にも先進的に取り組まれているヨーロッパの高齢対策は、ケアが必要になってからどうするかという発想ではなく、健康に年を重ねることに重点があります。具体的には高齢者をまちに出させる、まちから孤立させないということであり、まちが高齢者を支える仕組みをつくっていくということにほかなりません。
 豊中市内でも、まちづくり協議会が主体になって、同様の実験に向けた取り組みが進められています。だれもが暮らしやすいまちづくりを、まちの移動性、交通性の視点から進めようとしています。自分たちのまちの高齢化にどう対処するか、ひとつの方策を示しているといえそうです。そうした取り組みを検討するうえで、参考になるに違いありません。また、タウンモビリティを紹介する文献があまりない現在では、貴重な1冊です。
(津川)

まちづくり交流誌『エコー』(豊中市まちづくり支援課発行、年4回)

 各地域のまちづくり活動ほか、新しい制度や事例、住民主体のまちづくり活動の参考となる本などを紹介しています。「エコー(ECHO)」は Enjoy Communication and Have Our Vision の略で、「楽しく議論しよう。そして、自分たちのビジョン(将来目標)を持とう!」という姿勢を表しています。

『都市問題』 99.07

 読者は「ショップモビリティ」をご存じだろうか。これは、主にショッピング・センターや商店街で、高齢者や障害者など歩行に困難をもつ人びとに電動スクーターを貸し出すシステムで、1970年代末にイギリスで始まった取り組みのことである。これが現在、日本において福祉、まちづくり、商業振興などさまざまな分野の注目を浴びている。本書の編者である「タウンモビリティ推進研究会」も、まちづくりに携わる行政担当者やプランナー、商業関係者、メーカー関係者などで編成されているが、同研究会は、このイギリスで発展したシステムを「タウンモビリティ」という新しいコンセプトに改良し、高齢者や障害者が商店街、街なかを自由に楽しむことのできる外出支援のプログラムとして日本各地に導入することを提案している。本書の優れたところは、タウンモビリティ導入の具体的イメージを明らかにするために、最新の電動スクーターの性能を詳細に説明したり、都市の大きさに応じた事業化に向けたシミュレーションを行ったりして、日本においてもタウンモビリティの実現が十分可能であると示している点である。
 本書は全8章で構成されている。第1章から第3章までは、ショップモビリティ先進国であるイギリスに学ぶために、イギリスで実際にショップモビリティを導入している地区の事例が紹介されている。イギリスの経験によれば、ショップモビリティには行政、企業、市民の連携が不可欠とのこと。つまり、自治体および企業による資金的援助、企業や地元商店街による事務所の提供、市民ボランティア参加による人的資源の確保などがなければ、このような事業は成立しないのだそうだ。
 第4章から第6章までは、日本についての記述である。具体的には、新しいタウンモビリティが日本に導入される気運の紹介から、電動スクーターの機能や利用効果、タウンモビリティ導入の手順検討まで順を追って整理している。ここまでされると、それまでおよび腰であった自治体や商店街も、「ひとつやってみるか」という気になるかもしれないと思うほどの丁寧さである。
 見込まれる介護需要の急増など高齢者福祉政策に頭を痛める自治体、地域の高齢化に伴いまちの活気がなくなったと嘆く商店街には、ぜひタウンモビリティの発想を取り入れて、街なかにおける高齢者の移動の自由を確保してほしい。モビリティが確保されれば自立して生活を営める人は、実は多いのかもしれない。


『月刊ケアマネジメント』 99.07

 車いすや電動スクーターで買い物する人も、最近ではそれほど珍しくはないとはいえ、いまだ、障害を持つ人には暮らしにくいのが日本の街だ。一方で、大規模チェーンストアやスーパーに客を奪われ、市街地の空き店舗化が目立つようになった。
 高齢者や障害者に電動スクーターなどを無料で貸し出し、自由に商店街で楽しんでもらう外出支援プログラム「ショップモビリティ」は、英国で始まり成功している。本書はこうしたショップモビリティの概要を紹介すると共に、湯河原や駒ヶ根など日本での導入事例を詳しくレポートした初めての本。
 障害を持つ人にとって外出支援サービスも重要ではあるが、ショップモビリティはそれを商店街活性化の面からとらえた点が、日本でも注目されている点だ。特に、市街地中心部の活性化策として有効ではないかと検討されている。
 商店街に小さな事務所を置き、車いすなどの機器を利用者に無料で貸し出す。機器の購入費用は寄付で賄われる。英国のサットンやバートンといった先行地域では、この試みにより、バリアフリー化も進んだ。街全体がにぎわいを取り戻し、売り上げ増にも結びついたという。もちろん事業全体の経費や街までの交通手段など課題もあるが、「福祉の経済効果」という面からも、自治体や商店街はもっと検討してみてもいいのではないだろうか。
 なお、英国では「ショップモビリティ」が一般的だが、日本ではその導入に当たり、街全体へと広くとらえるため「タウンモビリティ」と名づけたという。そのため本書のタイトルもタウンモビリティとなっている。


『ASHITA』 1999.4

 タウンモビリティとは、高齢者や障害者に電動スクーターや車椅子を貸し出し、商店街や街中を自由に楽しんでもらう外出支援のプログラムのこと。イギリスの先進例「ショップモビリティ」を日本に導入するにあたり、買物だけでなく、幅広い活用の可能性があることから名付けられた。
 近年、各都市の中心市街地が衰退し、郊外の大型店に客を奪われるケースが増えている。しかし、そうした大型店を利用できるのはマイカーを運転できる人たちであり、交通弱者である多くの高齢者や障害者は地元の商店街を利用するしかない。しかし、そこは彼らにとって快適な空間だろうか。多くのバリアが立ちふさがっていることが多いのではないだろうか。
 本書では、地方中小都市から大都市まで、タウンモビリティ事業化のケーススタディが試みられているほか、実際の導入の動き等が紹介されている。まちづくりの新たな視点の一つとして注目される。

学芸出版社
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