風景デザイン

感性とボランティアのまちづくり


はじめに

進士五十八、森清和、原昭夫、浦口醇二

 衣食足りて礼節を知る。
 日本も、ようやく二十一世紀を迎えて身近な地域の景観のあり方を考えるようになった。全国の自治体が、わが村わが町、わが都市の個性とは何か、アイデンティティは、どこにあるのかを真剣に考えるようになっている。これまで自然景観や歴史的町並景観が観光資源であった市町村ではもちろんであるが、そうではないふつうの自治体で次々と「景観条例」を制定している。その数は五百を越え、いまや何の景観施策ももたない自治体は皆無といってよい。行政ばかりではない。圧倒的な住民運動や市民活動が「まちづくり」をテーマに大きな盛り上りを見せるのが、二十一世紀日本のトレンドといってよい。
 人々は、いま自らが生きる地域が、真にプライド・オブ・プレイス足りうるかを考えはじめている。美しい環境のなかでくらしたい。美しい風景、いい風景をいかにして創り育てるか。それにかかわることが、真に豊かな生活であり、それが、生き甲斐を与え、自己実現につながる方法であることに気づきはじめた。美しい景観づくり、すなわち風景デザインは「環境福祉」である。本書は、そのことを具体的に考える道すじをわかり易く述べたものである。
 第一章では「景観」や「風景」の意味、見方、考え方、「風景づくり」の基本について、さらに第二章では「生き物」、第三章では「参加」、第四章では「イメージ」を、それぞれのテーマとしてこれからの風景デザインへの取り組み方について述べ、そして第五章で以上を総合化する方法について具体的事例で理解できるようにした。
 筆者らは、全国各地のたくさんの景観行政やまちづくり運動に参画し、相談にのってきた。そのなかで、景観づくりの名の下に町並みの厚化粧事業がすすめられたり、地域性を無視し画一的な、アーバンデザインの技法や材料をなんの迷いもなく適用しているのをみてきた。また形式的なガイドライン規制によるだけで、何ら実効を伴わない景観行政が少なくないこともわかった。「景観」や「風景」の本義を考えもせずに、ただまちづくりのニューファッションとしてしかみていない担当者がいかに多いかも痛感している。
 景観や風景の英語は「ランドスケープ」。ランド(land)は、土地・自然。地域性や生き物など自然性を基調としてこそ「景観」だということである。またスケープ(scape)は、全体・総合。建築も緑も、図も地も、人工も自然も、空間も時間も、ハードもソフトも、目に見えるものも見えないものも、「一目瞭然」。要は、トータルバランスこそが「風景の眼」の基本だということである。
 本書は、こうした「景観」の本質を十分に踏まえたまちづくりをすすめようとする市民・行政・企業・コンサルタント・デザイナー・学生などすべての方々に読んでいただこうと願って書いたものである。日本の美しい風景づくりに少しでも役立てば幸いである。
   一九九九年一月


学芸出版社
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