安全と再生の都市づくり

阪神大震災を超えて


書 評


『都市問題』 1999/7号

 本書は、阪神・淡路大震災をきっかけにして(社)日本都市計画学会内に発足した「防災・復興問題研究特別委員会」で、1995年から約3年半をかけて行われてきた調査研究活動の成果を一冊の本にまとめたものである。本書は全三部から構成されているが、それは同委員会の中に設置された三つの部会、すなわち「防災都市計画・地域防災システム検討部会(第一部会)」、「計画支援・住民参画検討部会(第二部会)」、「計画・事業制度検討部会(第三部会)」に対応するものである。
 本書の内容を簡単に説明しよう。
 第一部では「防災の観点から都市はどうあるべきか」をテーマに、まず現行の防災都市計画や地域防災システムの抱える課題および方向性が整理され、それを踏まえて、次世代の都市づくりや地域形成に資する都市計画技術を考えるための視点が提供されている。具体的には、都市の規模や性格別に、これまでの経緯および現在の問題点(自治体間連携・災害情報ネットワークなど)が整理された上で、オープンスペースや避難路などどちらかというとハードの整備に関わる対策、防災の主体や地域人材の育成などソフト面の対策を統合した形での地域防災計画の策定、防災都市づくり、地域防災組織のあり方などが提示されている。また、広域防災情報ネットワークやGIS(地理情報システム)の活用といった、今後の発展が期待される項目にも検討が加えられている。
 第二部では、被災地域の住民みずから復興事業に取り組むことが重要であるとの意識のもと、「住民参加・計画支援」という視点から、まずいくつかのケーススタディが行われる。その結果を参考にしながら、次に、復興・復旧過程に生じる問題について検討され、最終的にそれらを解決するための提案がまとめられている。ここで事例として取り上げられたのは、真野地区、野田北地区、六甲道南地区それぞれにおける阪神・淡路大震災後の復興プロセスで、それらを参考にまとめられた提言は、被災者支援ネットワークの形成、事業型NPOの支援、コミュニティが自立して総合的まちづくりを実現できるような計画システムの確立、まちづくり協議会のあり方の見直し、復興まちづくり手法の多様化・総合化など非常に幅広いものである。
 そして第三部では、必ずしも大規模な災害の発生を想定していない従来の制度の不備な点に検討が加えられた上で、「総合性、迅速性、実効性を重視する新しい計画・事業制度のあり方の検討」をテーマに、抜本的な制度改革を伴うものから部分的な改革で済むものまで、多種多様な制度の補強策が25の提言という形でまとめられている。
 本書の冒頭でも述べられているが、確かに本書刊行の契機となったのは阪神・淡路大震災であったが、本書はあえてそれに一定距離をおくことによって、他地域にも応用可能な広い意味での「安全と再生のまちづくり」のあり方を示すことに成功している。地震国日本における新たな防災都市づくりを考える上で、ぜひ目を通したい一冊である。


『建築とまちづくり』 99/4号

 阪神・淡路大震災では、きわめて大規模かつ深刻な建物や構造物の破壊あるいは人的な被害が生じ、現代大都市における防災上の多くの問題を露呈した大災害ともなった。
 震災から四年が経ち、被災地では様々な困難さを伴いながらも復旧・復興が進んでいる。また、多方面の専門家等によって、被害状況、ソフト・ハード両面の復旧・復興のプロセスおよび問題点が整理されてきた。
 都市計画学会では「防災の観点から都市はどうあるべきか」「安全で住みやすい都市をつくるための計画支援と住民参加はどうあるべきか」「安全で住みやすい都市づくりを制度的にどのように支えるか」、これらの課題について調査研究を行い、成果としてこの本を出版した。
 防災まちづくりの視点から土地利用、道路、オープンスペース、木造密集市街地の整備等、広範囲な分野における課題を整理し、計画手法及び事業制度の確立に向けての提案が行われている。特に、まちづくりにおける住民や専門家の役割、住民参加の必要性が、震災復興という厳しいプロセスのなかで行われたまちづくり協議会等の具体的な活動を通して検証されている部分は興味深い。平時から住民参加によるまちづくりが行われてきた地域で、住民自身が組織的に復旧をサポートしてきた経験は、今後のまちづくりへの貴重な教訓ともなっている。
 行政にありがちな単線的なものでなく、自己決定できる多角的な選択肢を持つ復興プログラムの必要性が提起されている。そのためには平時から、財源、防災まちづくりのあり方、行政・住民・多方面の専門家の役割や連携のあり方等が十分検討され、安心・安全なまちづくりとして実行される必要がある。この本のねらいとするところであろう。


『建築と社会』1999/4号

 阪神・淡路大震災後の4年間に都市計画学会の小委員会で発表された論文を総括し、そこから導かれる都市の在り方への提言をまとめている。今回の震災を対象にした調査や研究に限らず、震災を契機に都市計画の専門家たち62人がそれぞれの分野の視点から、それぞれの地域を題材に書き下ろしたものである。
 論文のボリュームと広範で専門的な対象のため、取り付きにくくなりがちな内容だが、論文の体系的な分類と項目ごと添えられているサマリーによって、誰にでも読みやすい構成となっている。
 テーマは大きく都市防災、まちづくりの二つに分かれている。都市防災の項では従来どおりの危険度評価や安全な都市構造が題材となるが、「地域の自発的な力を高める日常のまちづくりこそ災害に強いまちをつくる」とあるように、結論としての25の提言では、「まちづくりを支援するこれからの都市計画」という立場が強調されている。

(A・K)


学芸出版社
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