近年における建築物の新設や更新はめざましいものがあり、とくにその高層化が進み、大都市では超高層建築物があいついで建設されるすうせいにあります。それに伴い建築物の諸設備の占める位置の重要性もきわめて顕著なものとなって参りました。建築物と建築設備は車の車輪のようなもので、両社は不即不離の仲であり、端的に言って両者は一体のものとならなければ、いわば建築物として機能しません。
建築設備は、防災上必要不可欠な防災・消防設備、保健衛生上重要な給排水衛生設備、環境衛生上必要な空気調和設備、熱源供給上重要なガス設備もビル内の交通機関である昇降機設備、各設備に必要な電力源や照明設備のための電気設備に大別されます。
もちろん建築物の大規模化、高層化、複雑化あるいは地下街の普及に伴い、これら対象物において火災などの災害が発生した場合に適切に対応するため、高度な防災・消防システムを必要とし、このため電子技術などを活用し、建築物全体として総合的かつ有機的に機能するような防災・消防設備に整備され、いわゆる防災・消防設備のインテリジェント化もめざましいものがあります。
このような情勢下の斯界において、防災・消防設備の設計、施工およびこれの保全管理に多くの方が従事され、また斯界での活躍を希望される方も多くおられます。ところが、とくに防災・消防設備の新設や改修のための工事現場で施工を担当される方、あるいは設備の保全管理を担当される方々のための適当な入門書が見当らないのが現実です。もちろんこれらに関する書籍は多種発刊されておりますが、これらはいずれも斯界において設計や施工の管理、監督といった高級技術者を教育するための内容、レベルであり、学校において専門教育を受けておられない方々など、いわゆる初心者が独学で理解できるレベルの内容の書物は皆無といっても過言ではないほどです。
こういった現状を打破し、設備の施工現場やビル設備管理の職場へ容易に参入していただけるよう、イラストやわかりやすい図表などを用いて、空気調和に関してやさしく解説した本書を執筆致しました。この入門書で勉強され、所定年限の実務を経験された後、高級技術者としての建築設備士、建築物環境衛生管理技術者、建築設備検査資格者あるいは消防設備士、消防設備点検資格者、危険物取扱者など、法的な資格にチャレンジされる方は、市販の多種の専門書を参考にして下さい。
本書は初心者の方の斯界への誘いのため、そしてすでに斯界でご活躍の方々の知識、技能のより向上のため、また高度な法的資格をめざしていただくための、糧の一助になればとの願いを込めて、浅学非才の身をも顧みず執筆した次第ですが、繁簡当を得ぬところや誤謬があるやも知れませんので、大方のご叱正を賜わるとともに、本書が読者各位の斯界における実務そして勉強の一助として、お役に立てばこのうえもない幸甚です。 そして素晴らしいイラストを描いて下さいましたイラストレーターの木村芳子先生のご尽力に対し厚くお礼申し上げます。
1993年1月
中井 多喜雄