建築物の省エネ設計技術
省エネ適判に備える

まえがき


 2015 年COP21 で採択された「パリ協定」(先進国に加え、発展途上国を含む全ての国が地球温暖化に取り組む初めての枠組み)は2016 年にはわずか1年弱で発効し、建築物における省エネルギーのみならず、脱炭素に向けた動きが世界で加速しています。年間の一次エネルギー消費量が正味でゼロ又は概ねゼロとなる建築物「ZEB」の推進も頻繁に議論され、各社で取り組みが進められています。一方で、現在ではパイロットプロジェクトとして進められているものが多いのが実情です。

 2015 年7 月に公布された「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」(建築物省エネ法)の完全施行がこの4 月から始まりました。2,000m2 以上の特定建築物では省エネ性能の基準適合は義務化、また300m2 以上の住宅や建築物でも省エネ性能を満たしていない場合、改善の指示・命令を受けることとなりました。一部の率先的な取り組みだったものが、建築全体のデザインプロセスとして普及してゆくことが求められています。このため本書では、建築に携わっている建築家・施工者・技術者などの実務者、これから建築を学ぶ学生に、実践的に役立つことを意図しています。

 建築学の起源として、紀元前後に書かれた「ウィトルーウィウス建築書」が挙げられます。この書では明確に技術論が展開され「制作」と「理論」の双方に重点が置かれています。建築は、技術を学ぶと同時に、実際の設計・施工、更には運用までを実践し、体得してゆくことが必要です。興味を持って、基礎的な学問、広範囲な知識を吸収しながら、導入・運用のみならず、その応用までも同時に考えることが重要と思います。

 本書ではまず第1章で実際に省エネルギー技術を導入した建築事例を解説し、第2章で省エネルギー技術に関する制度、第3章で個々の省エネルギー技術を解説し、多角的に学ぶことのできるよう図っています。既に省エネルギー・環境配慮技術を採り入れた設計・施工・運用に携わっておられる、またはこれから考えてみようと考えておられる建築家・技術者のみならず、実際に施設を利用されている方々や、これから建築を学ぶ学生にも是非本書を手にとって頂き、技術を学ぶだけでなく、それらを使うことを意識しながら建築のあり方を少しずつ考えてもらえれば幸いです。

 さて本書の作成にあたっては、実務を行いながら作業に携わって頂いた「建築物の省エネ設計技術編集委員会」委員及び執筆者の皆様、膨大な作業を厭わず実施頂いた大阪府建築士会、監修をして頂いた大阪府など多くの方々にご尽力を頂きました。ここに厚くお礼申し上げます。

2017 年4月
立命館大学理工学部教授
サステイナビリティ学研究センターセンター長
近本智行