改訂版 イラストでわかる給排水・衛生設備のメンテナンス


改訂にあたって
 1995年に発刊されました『イラストでわかる給排水・衛生設備のメンテナンス』は、中井多喜雄先生の解りやすいユーモラスな説明と石田芳子先生の親しみやすいイラストで、これまで、大変多くの方に愛されて参りました。初心者にも大変わかりやすく、給排水・衛生設備のメンテナンス業務実務者のみならず、設計・施工に携わる方々に活用されてきたことと思います。
 本書は、好評につき、より一層、給排水・衛生設備のメンテナンスにおける現場で、活用していただけるように、改訂するにあたって、(1)現行法令をはじめ、時代の趨勢に合わせ、(2)使いやすさを重視し、2色刷とし、(3)関連資格の学習にも役立つように工夫することを主眼に改訂版として編集いたしました。
 ぜひ本書に触れていただき、給排水・衛生設備のメンテナンス業務実務者のみならず、設計・施工に携わる方々に、より一層、活用していただければ、幸甚です。
 最後に、本書の原著者であられます中井多喜雄先生、並びにイラストのご担当であられます石田芳子先生には、改めましてご功績に敬意を表しますとともに、このたびの改訂に快く御了承いただき進めることができましたことを厚く御礼申し上げます。

2017年初夏
田中毅弘

改訂版へのまえがき
 近年における建築物の新設や更新はめざましいものがあり、とくにその高層化とともに、高度情報システム、ビル自動管理システムなどを導入し、情報機能が格段に向上し、またオフィスオートメーションに対応した高度な建築的環境と設備を備えた、いわゆるスマートビル化が顕著であります。それに伴い建築物の諸設備の占める位置の重要性も一段と増してきました。建築物と建築設備は車の両輪のようなもので、両者は不即不離の仲であり、端的にいって両者は一体のものとならなければ、建築物として機能しません。そして、ここでとくに留意しなければならないのは、建築物本体は無論のこと、建築設備の保全管理、つまりメンテナンスを十分に施さなければならない点であります。このためビルの設備管理には多くのビル管理技術者(ビルメン)が従事されているわけですが、従来はともすればメンテナンスが軽視される傾向にありましたが、スマートビルとしての機能を維持し、かつ、安全衛生上快適な空間を確保するには、つねに質の高い保全管理を必要とし、もしメンテナンスを怠ればたちまち非衛生的な環境に陥り、ビルの寿命を著しく縮めるような事態に至ることは必定です。
 とくに注目しなければならないのは、日本に限らず欧米のスマートビルで、近年、ビル内の空気環境や衛生環境が悪化し、シックビル病やレジオネラ症が多発し、近代建築技術の粋を集めたスマートビルが、不健康なビルの汚名であるシックビル化している点です。この原因は建築設備の設計、施工不良などもありますが、その主因はメンテナンス不良にあるといっても過言でないほどで、このことは換言すればスマートビルとしての機能、環境を維持するには、つねに質の高い保全管理を実施しなければならないことを意味しているわけです。
 アメリカのビル協会の標語の1つに「適正に設備され、適正に使用され、そして良好に維持されるべきだ」(Properly installed, prsperly used and well maintained)というのがあります。すなわち、installing、using、maintainingの3者のうち、1つでも欠落すると、快適な居住環境、建築空間が期待できなくなるわけです。usingするのは居住者や利用者で素人ですが、installingを担当するのは設計者や施工技術者、maintainingに携わるのがビル管理技術者であります。
 建築設備は、給排水衛生設備、空気調和設備、ガス設備、電気設備、防災・消防設備、昇降機設備に大別されますが、もちろん給排水衛生設備の運用、保全管理を正しく行うことは保健衛生上きわめて重要なポイントとなるわけです。
 そこで給排水衛生設備に関して、その正しい運用、質の高いメンテナンスを目指していただきたいとの願いを込めて浅学非才の身をも顧みず本書を執筆した次第ですが、なにしろメンテナンスの分野は広範囲で、かつ奥の深いものであるにもかかわらず、学問的に体系化されてはおらず、また理論的に解析されていないといった側面があり、メンテナンスは書物(理論)で理解するものではなく「身体で覚えるもの……」といった傾向が強く、本書の説明では個々のメンテナンスに関して完全に理解しにくい側面はあると思いますが、各現場で諸先輩方の良き指導を受けていただき、保全管理の技術、ノウハウをマスターされ、ビル管理技術者としてさらに飛躍されんことを願っている次第です。
 なお、改訂に際して、貴重なご指導、アドバイスをいただきご監修の労を賜りました田中毅弘先生に対し、深甚なる謝意を表する次第であります。
 最後になりましたが、素晴らしいイラストを描いてくださいました石田芳子先生のご尽力に対し厚く御礼申し上げます。
2017年5月
中井多喜雄