ゼネコン技術者が教える
施工現場のトラブル回避100ポイント



はじめに
建築は一品生産の受注産業です。二つとして同じ建物はなく、施工条件は物件ごとに異なります。一品生産の現場は建築生産の最前線であり、最後の砦です。しかし一品生産であるがゆえに、建築技術は他の産業と比べてまだまだ未熟な技術といわれています。コンクリートに生じるひび割れの位置さえ、正確に予測することはできません。
ところがそのことを言い訳にして、同じ失敗を繰り返してはいないでしょうか。施工現場の安全管理や品質管理では、発生したトラブルに対し徹底して再発防止対策を講じる必要があります。そんなときに貴重なのが、先人の経験です。
建築生産の最後の砦を守る現場の建築技術者に向けて、表面に出にくい「先人の失敗事例」を共有することで再発防止ができる、そんな着目点で、100の事例を挙げて解説したのが本書です。
建築生産における施工現場の建築技術者の仕事は、設計者のつくった設計図をもとに建物をつくり上げることですが、不具合が発生したときに、設計図通りに施工したから自分に責任はない、指示されなかったから施工しなかった、というような言い訳は、施工者としての信用失墜につながります。発注者との契約書に添えられた設計図通りに施工するという任務遂行は当然のこととして、発注者側は、実はそれ以上のものを期待しています。そのような発注者の思いも汲み取って、適切な対処を施すことも、施工者の任務ではないでしょうか。
近年、施工現場は昔と比べて時間も費用も余裕がなくなり、かつて機能していた現場でのOJT(On-the-Job Training)による先輩から後輩への技術移転もままならなくなっている現状があります。そんな悩ましい現場の技術移転が少しでもスムーズに行えるようにと、汎用性のある項目を厳選してまとめました。
 本書が、皆さんの「砦」を守る知恵として活用いただけることを期待しています。

2016年8月 村尾昌俊・臼井博史