図説 建築設備


ま え が き


 本書は、大学、工業高等専門学校などで建築学を専攻する学生諸君を対象とした教科書として書かれたものであるが、内容的には、国家資格である一級建築士の受験を目指す参考書としても、その目的を十分果たせるように編纂している。

 近年の建築設備の複雑化、高度化は著しい。建築物において、従来から建築設備に求められてきた機能である安全性、快適性、衛生性、利便性などを満たす設備要素について、機械設備を例に挙げるなら、それぞれ防災設備、空気調和設備、給排水衛生設備、搬送設備などが主な設備として役割を担ってきている。これらの各設備の計画設計に当たっては、当然対象とする建築物に対して特長を活かした最適化が求められることはいうまでもないが、今日ではこれらの設備要素を総合化し、外部へ及ぼす負荷を最小化する環境性、さらには経済性(採算性)などが計画設計条件として要求されてきている。地球温暖化現象への危惧、資源の枯渇問題を考えるなら、省エネルギー・省資源化を図り、環境負荷の低減を求めるサステイナブルな建築の構築を進める上で、その主体となる建築設備が占める位置は重要である。

 また、建築設備の品質確保と維持管理保全は、信頼性、運転コストの削減に大きな影響を及ぼす。したがって、建築設備の計画設計・施工に係わる技術者だけでなく、建築計画設計、建築構造設計および施工に携わる人々も、建築設備に関する基礎知識の取得は必須である。低炭素社会に向けたサステイナブルな建築の普及を図っていくためには、意匠設計を含めた四者による協同が、建築の企画・計画設計の段階から求められる。

 本書では、学生諸君の教科書として、建築の意匠・計画・構造・設備といった分野に限定せずに、建築学を学ぶ初学者が容易に理解できるように図表を多用し、平易に解説するように努めた。また、サステイナブルな建築に向けた建築設備の役割、特に環境負荷低減のための省エネルギー・省資源化の動向、考慮すべき計画設計についてページを割いた。さらに、建築学専攻では疎遠となりがちな電気設備、搬送設備について、類似の書には見られない内容を多く盛り込み、建築設備全体として最適な計画設計が指向できるようにした。

 本書が、建築を学ぶ学生諸君および実務に携わる人びとにとって、きっと有用なものになることを願ってやまない。
2016年7月
村川三郎
広島大学名誉教授