図とキーワードで学ぶ 建築環境工学


はじめに

 建築環境工学に関する卒業論文や修士論文を手がけようとするとき、学生たちは往々にして、学部における講義内容と、論文執筆で扱う先端的内容との間に、大きなギャップがあることに気づく。建築環境工学に本気で取り組もうとする学生諸氏に向けて、いわゆる環境工学のメインストリームの内容を漏らさず扱いながら、なおかつ、関連する周辺の、そして最先端の知識をも取り込んで、常にガイドとして活用できるようなテキストを作れないか。本書は、そのような考え方のもとに編さんを試みたものである。
 建築環境工学は、建築士試験の突破を標榜し、ミニマムの内容で体系づけるとすれば、一般には「日照・日射」、「採光・照明」、「断熱・結露」、「換気・通風」、「騒音・音響」、の5組10個のキーワードで記述される。そして、「人体温冷感」、「都市・地球環境」の話題が必要に応じてカバーされる。本書では、これらの内容を網羅することはもちろんであるが、さらに高度な内容への橋渡しをすべく〈Advanced〉の表示を付けて、以下の内容についても織り込んだ。
@「断熱・結露」に関しては、非定常伝熱の取扱いの手法を詳述した内容を盛り込み、また「換気・通風」に関しては乱流の基本的な考え方に関する記述を加えて、コンピュータによる数値解析を志す学生の入門に資することとした。
A「騒音・音響」に関しては、音楽や環境音の積極的創造に関する今日的話題を、また「日照・日射」に関して、建築の歴史的視点からの話題を追加し、アラウンドの知識との連携や境界領域への洞察を促した。
B「都市・地球環境」に関しては、わが国の気象の特徴を記述するとともに、高層天気図やエマグラムなどの気象学の知識にも触れ、またリモートセンシング画像の画像処理技術についても紹介した。
C実測調査やシミュレーションの手法を学ぶ上で知っておきたい導入的知識は、演習等の具体例を積極的に取り上げて説明した。
 建築環境工学の習得には、数値や単位に精通し、計算演習を多くこなすことが必要となろうが、そればかりでなく、建築空間、都市空間の現場に出て、それらの数値がもつ意味を自身で体得することこそ、求められるところである。本書が、快適な空間を創造する力を養うための一助となるならば、幸いである。
2013年3月  飯野 秋成