図説 やさしい建築材料


はじめに

  これから建築を志そうとしている皆さん、建築は身近な存在であるということをまず意識してみてください。今、皆さんがこの本を手にとって読んでいるその場所もおそらく建築でしょう。その場所に皆さんのこれからの対象となる建築そのものがあるのです。

 建築は我々の生活にとって大切な「衣食住」の一役を担う分野です。誰もが建築にお世話になりながら日々を暮らしています。人は意識するかしないかは別として、その建築に影響を受けて成長してきたといえます。その建築には長い歴史があり、いろいろな用途のものがあり、さまざまな取決めがあります。これからその建築を勉強していくわけです。

 では、その建築がどのような材料でできているのか? その材料はどういう歴史をたどってきたのか? その材料はどんな特徴があるのか? また、その材料はこれからどうなっていくのか? そういったことを勉強するためにつくられたのが「建築材料」という科目です。

 私は専門学校で建築を教えるようになって12年目を迎えています。当初から「建築材料」の科目を担当しています。住宅会社での勤務経験をもとに体験談や失敗談などをとりいれながら授業展開をしてきました。

 私は常々「建築材料」の授業の進め方を五感に訴えて行いたいと思っています。「見て、触って、臭いを嗅いで、聴いて……」。そのために、自分で集めた資料を授業中に頻繁に回覧しています。その材料を印象に残してもらいたいと思ってのことです。その時に使用する資料や教科書はどのようなものが良いのかを考えてきました。

 そのようなことを考えながら、私は一コマの授業を展開するためにシナリオを作るようになりました。今日一日の授業で何を語り、何を板書し、教科書をどう利用し、何の資料を回覧し、どう印象づけるか? という授業展開するための段取り表を作りました。

 そうした授業展開を段取り表をもとにまとめたものがこの本です。実際に使っているものを文章化し、その文章をできるだけイラスト化し、授業で話している内容などを盛り込み、体験談や失敗談をもとにコラムやエピソードにしてみました。建築のことがよくわからない人にとってもなんとなく読み進めることができるようなものにしたいと思いました。できるだけやさしい表現を心がけたつもりです。

 特徴としては、
・できるだけ長い文章は避けるようにしました
・支障のない範囲で箇条書きにまとめました
・イラスト、写真、表を多く取り入れて本文と対応できるようにしました
・各材料に関するコラム、エピソードを多く取り入れ、興味を誘うようにしました
・できるだけ各材料の歴史と特徴(長所と短所など)を説明するようにまとめました

 一人で執筆したために、項目によっては内容の濃いところや薄いところがあると思います。私自身の知識の深浅や経験によっての想いが異なるためです。しかも、「建築材料」のすべての項目を網羅したものではないかもしれません。あくまでも、初めて建築の分野に入ってきた人たちの入門書として役に立てばよいと思ってまとめたものです。この本が将来建築を志す人にとって何かのヒントになれば幸いと思います。

 本書作成に当たりまして、イラストを担当していただきました野村彰様、執筆中ご尽力いただきました学芸出版社知念靖広様、執筆のきっかけを与えて下さいました学芸出版社村井明男様、写真掲載を快くお許しいただいた方々、参考文献の関係者の皆様、この場をもって厚く御礼申し上げます。

松本 進
2007年11月1日