これからの鉄骨構造

書 評


『省エネルギー』((財)省エネルギーセンター) 2001.11
 同時多発テロ事件で、飛行機の突入により倒壊したニューヨークのワールド・トレード・センタービルは、110階建で、高さ417メートルだ。このような超高層ビルは、鉄骨構造でなければ建てられない。
 極厚H形鋼の製造とともに、建物の揺れを解析する振動理論の発展とコンピュータの進歩も無視できない。本書は、鋼材の選定に始まり実際の施工に至る一連の流れの中で、鉄骨構造の土台として求められる必須の知識、技術を、最近の情報を盛り込みながら平易に書かれている。
 製鉄の歴史、鉄と建築の話から説きおこし、鋼材の特徴、構造設計、鉄骨部材の接合方法、接合部や溶接施工などについても触れている。
 数式を極力用いず、鉄骨によるものづくりの基本が、初学者、実務家を問わず理解できるよう配慮されている。ところどころに「閑話休題」というコラムが用意されており、シーメンス炉、吊り橋、アーク溶接など、関連した話題がやさしく書かれているのも心がなごむ。
 ワールド・トレード・センタービルについても、鉄骨造フレームドチューブ建築物の代表として、写真、図表で詳しく説明している。水平力に対し、外周の鳥かご状のラーメン骨組が抵抗し、各階の床はラーメン骨組の変形を防ぐ隔壁として働く。しかし水平力が強まると脚部の曲げ応力がゆがみ、弱くなると指摘している。まさにその通りの結果となった。なお、本書は事件の3ヶ月前、6月末に発刊された。





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