構造計算書で学ぶ木構造
金物設計の手引き

まえがき

 日本の住宅は木造2階建が主流である。
 伝統的な構法である木造軸組構法は柱・梁・筋かい等で構成されており、地震や台風による外力は筋かいが負担する。したがって、接合部である仕口・継手の取り扱いが重要となるが、その仕口・継手には高度な技術を必要としたため、かつては大工・棟梁が設計することが多かった。
 平成7年の兵庫県南部地震での被害実態を鑑み、平成12年には建設省告示1460号[木造の継手及び仕口の構造方法を定める件]が制定され、建築士による仕口金物設計が義務づけられた。しかしながら、告示に示された方法では仕口の金物が過大となるのが実状である。他方、同告示のただし書きにおいて「構造計算」で安全を確認すれば他の方法によってもよいと規定されている。
 本書では「告示による金物設計」「N値計算法による金物設計」「構造計算による金物設計」の3つの設計方法を示しているが、より後者の方が適切な金物が選択でき、経済的でもあるといえる。法令上、木造2階建について構造計算は不要であるが、通常は金物を合理的に設計するために構造計算を行っている。
 その金物設計を中心として、木造設計における一通りの構造計算の方法を入門書的にまとめたものが本書である。
 本書の特徴は以下の5点である。

1.課題を解き、構造計算書にまとめ上げながら木造設計法を学ぶ。
2.「構造計算書シート」による実践的構造設計なので実務にすぐ活かせる。
3.関係する法令・告示、日本建築学会および日本住宅・木材技術センターの設計規準の要旨を掲載。
4.「構造力学」「建築構法」「法規」等の関連を知り、総括的に学べる充実した解説。
5.大学、専門学校などのテキストとして、また、すでに基本を学習した初心者のための研修、自習のテキストに最適。

 構造計算はコンピュータの操作技術を覚えれば答えが出る時代となった。しかし、計算が面倒だからといって最初からコンピュータに頼ってはいけない。それでは、コンピュータが出してくる答えのチェック、設計変更のチェックもままならない。そのようなレベルで設計していては、不注意で安全性を大きく損なった建物をつくりかねないのである。
 コンピュータは計算はできるが、構造設計はできない。構造設計は実践との応答にて会得できるものであり、まずは手計算で基礎知識を会得し、構造設計のセンスを身につけてから、コンピュータを使うのが構造設計者への王道である。
 本書で示した構造設計術は、(財)住宅保証機構での住宅性能保証制度検査員としての検査実務に基づいたものであり、資料を提供くださった方々にお礼申し上げます。また、労多き実務書の編集・校正は、森國洋行氏、村角洋一氏が担当くださいました。ありがとうございました。
 一人でも多くの方にお役に立つことを願います。

  平成18年8月13日

上野嘉久