改訂版 実務から見た基礎構造設計


書 評

『基礎工』((株)総合土木研究所)2006.3
  構造設計が基礎も包含した一貫設計プログラムによって行われている現状に対して日頃から疑念を抱いていたものであるが、遂に、この一貫設計プログラムを悪用した耐震設計儀装事件が平成17年11月に起きてしまった。一個人の起こした事件とはいえ構造設計者は複雑な思いに駆られていた。事件の冷めやらぬなか本書に出会い、活きた数字が目で追えることの喜びで何か爽やかな安堵感を覚えた。本書はコンピュータ主流の構造計算の流れの中、ブラックボックスからの脱却を試みる勇気を与えてくれるし、構造設計の手法を再考させるためには最適書となるように思える。長年行政に携わった経験を生かした眼力と、実務に精通していることが随所に満ち溢れており、若い実務者にとっては絶好の参考書となるものと思われる。更に、本書で特筆すべきことは、筆者も記しているように実務経験から会得した設計術を構造設計の定石として纏めていることと、超高層等の大規模建築でなく社会に広く存在する一般的な建物を対象にしていることで、堅苦しい技術書からの脱却を図っていることではなかろうか。
  本書は最新の建築基準法、建築学会規準、SI単位に対応している。内容は、基礎と地盤、地盤調査、基礎構造の選定、地盤の許容応力度、地盤改良の設計、沈下量の検討、杭の許容支持力、地震力に対する基礎設計、基礎スラブの設計、基礎梁付偏心杭基礎、栗コン・埋込み基礎の11項目から構成されている。各項目それぞれに計算式の記号や符号について詳細に分かり易く解説し、それに対応して設計例が丁寧に計算されているので理解をより深めることが出来る。また、それぞれに計算図表が豊富に添付されているので実務的には非常に便利に利用できる。基礎の設計変更は設計監理業務では比較的多く発生するが、本書は工事の進行段階において変更設計を行う待ったなしの現場作業に対しても即対応できる実務書でもある。基礎設計で日頃疑問を抱いている事項に関してもタイムリーに解説されているので読者を満足させてくれる実務者必携の技術書ではなかろうか。
  構造設計で電算を否定するのではなく、本書に掲載されている計算式をExcelなどにプログラミングして利用すればブラックボックスから脱却でき別の楽しみ方が生じる。

(世良耕作)

『建築技術』((株)建築技術)2006.3
  最近、構造設計の信頼性を揺るがす事件が起こりました。事件を通して、構造設計の重要性が再認識されたと思います。さて、今回紹介する本書は、著者が建築主事時代に、確認申請の構想計算書の審査を通して知り得た実務的設計法の経験を、力学的・法律的な裏付けを行いながら「基礎構造設計」についてまとめたものです。
  本書の特徴は、法令や指針、規準を網羅しながら、「構造設計の定石」で実務経験から生み出された実務設計術をまとめ、各種基準ごとにバラバラだった図表を「実務図表」として項目ごとにまとめています。また、「設計例」では、5階建程度の実際の設計例をもとに作成し、計算手順の理解に役立てるとともに、設計参考資料として役立つものとしています。