建築の保存デザイン


書 評

『室内』((株)工作社) 2003. 8
 歴史的な建物の保存運動が起こってもその多くが結局壊されてしまうのはなぜか。いっぽう残された建物はどのように「保存」されているのか。そもそも保存とは何か。その答えをわかりやすく説明しているのが本書である。
 前半は世界の文化財保存活動の基本となっている「アテネ憲章」と「ヴェニス憲章」をもとに、保存する意味、耐震性や経済性など直面する問題、保存方法が理論的に説明されていく。後半は大英博物館や旧門司税関など、36の建物の実際の保存方法の紹介が続く。
 本書は季刊誌「ディテール」(彰国社)の連載で取上げた事例を、全面的に書き直したもの。著者は'80年代にベルギーでヴェニス憲章の実質的作成者レイモン・ルメール教授のもと、保存の実践教育を受けた。現在はユネスコのNGO団体日本イコモスの国内委員会理事であり、(株)日本設計の保存プロジェクト総括を務めている。
 「保存とは歴史をありのままに伝えていくこと」とヴェニス憲章はいう。その理念を直接学んだ田原さんの、保存に対する使命感が伝わってくる。

(華)

『建設通信新聞』 2003. 6. 25
美しいデザイン「本物」を後世に
 日本で明治期以降に建てられた欧風近代建築をどう後世に残すかについて、大きな課題になっている。明確なルールが確立されていないうえ、欧米に比べて耐震性の確保が重要になるからだ。
 本書は、国内外の建築再生活用の事例を(1)修復(2)置換(3)付加(4)新たな手法―の4手法に分け、多数の写真や図を使って紹介している。現代建築の痕跡を残すような改修でありながら、偽物ではなく本物として後世に伝えるデザインを集めた。
 文化財をただ展示するのではなく、身近な建物として活用する内外の動きや、1964年にイコモス(国際記念物遺跡会議)が採択したヴェニス憲章など、潮流や理念を踏まえ、多角的に保存デザインのあり方を探る。著者は80年代、ベルギーの保存修復専門機関で、ヴェニス憲章の起草者であるレイモン・ルメール氏に師事した経験を持つ。現在は日本設計保存プロジェクト総括に籍。