建築学テキスト 建築概論
建築・環境のデザインを学ぶ

まえがき



  この書は,建築を志した人々が,建築の世界を垣間見,興味をさらに深く掘り下げていくためのきっかけとなるテキストを目指している.しかし難易度を下げているわけではない.建築が驚きに充ちた世界であり,現実の世界が,自分たちの想像力をはるかに超えていることを示していくことにより,具体的な発見の書にしたいと考えている.
 また建築を実践的な面から捉えることに務めており,豊富な事例をアイデア集のように編集することにより,発想やヒントのきっかけになることも念頭においている.  5人の執筆者は,全員,設計実務と建築教育の両分野にわたる経験を生かし,それぞれの視点への案内人として,発想の豊かさにつながることを心がけて資料を集めている.
 設計にただひとつの正解というものが無いことは誰でも知っている.それは可能性に満ちていることの証でもある.ところがいざ建築の設計を手がけると,途方にくれてしまい前に進めなくなることに直面する.専門教育課程ではここで前に進めなくなる学生が続出する.しかしそれは本人に才能が無いからではない.実感のある情報が不足しているからだ.リアリティに満ちた情報となるために,各章は網羅的であることよりは個性的なものの見方を示すことを心がけている.
 第1章のテーマ「風土」では,住まいの多様性を,編集している.第2章のテーマ「現代建築」では,素材,構法の観点から現地取材のもとに試みている.第3章のテーマ「歴史」では,建築空間史という視点から,今までの歴史学とは異なるものの見方を目指し,第4章のテーマ「構造」では,構造の原理が,社会にどのように実現されているかを示し,第5章のテーマ「ランドスケープ」では,人間の感性を直視するところから生まれるデザインを追及する.第6章のテーマ「発想」では具体的な設計手法への手がかりを,助走の技法としてあえて打出す冒険を試みている.
 各章はこのようにそれぞれが「アイデアの玉手箱」でありながらも,逆説的には建築が単なる手法の編集では納まりきらない,ひろがりをもった世界であることを示していきたいと考えている.
    2003年3月
 
執筆者を代表して 本多 友常 










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