建築学テキスト
建築行政

まえがき

 わが国の近代法制としての都市計画法と市街地建築物法が公布されたのは大正8年(1919年)で,明治維新・東京遷都から50年の歳月が流れていた.その当時の主要な都市の骨格は,近世の城下町の姿を受け継いでいるとはいえ,この半世紀の間に形づくられたものが多い.したがって新たに法律を制定するにあたっては,その時点の実態を考慮に入れる必要があった.
 また,第二次世界大戦で多くの都市が壊滅的なダメージを受けたが,その復興期に注がれたエネルギーは大きく,そこから生じた混乱は,再び現在の都市と建築に新たな課題を残した.さらに高度成長期を経たあと,私たちは環境問題や価値観の変化に直面している.
 法律は,一度つくられるとその基本的な考え方をまったく変える場合でないと,廃止したり全面的に改めることは難しい.都市や建築に関する法律は,そのあり方やつくり方を定めるものであるから,一部分を改正する場合でも慎重にならざるを得ない.現在の都市計画法と建築基準法は,こうした背景のもとで80年以上の歴史を経てきた.
 このテキストの中心になっている建築基準法は,その前法の,初期の古い規定を受け継ぎながら,各時代の新しい問題にも対応する改正が重ねられてきている.また,法文には私たちが日常使う言葉にはない厳密さと,法律としての専門用語が含まれていることにも注意しなければならない.本書はこのような点を念頭において読み進めていただきたい.また,本書は法文の内容を理解することに重点をおき,法文についてはその条項を示すにとどめているので,法文そのものがどのような文章表現および構成になっているかということと対応させることも,ぜひ試みてほしい.
 本書は,大学などの講義のテキストとして利用されることを想定して編集したものであるが,行政や建築実務家の方々の初期の研修や建築士試験の受験準備のためにも,有効に活用していただけるものと考えている.
 編集に着手してから限られた期間内で,法令の大きな改正を組み込みながら執筆を進めたが,学芸出版社の吉田編集長をはじめ編集部の各位のおかげでまとめることができた.適切な助言や協力に感謝を申し上げます.


2003年1月
執筆者一同