あたらしい森林浴
地域とつくる!健康・人材育成プログラム


はじめに

森林浴を選んだ理由

こんにちは。たくさんの書籍の中からこの一冊を手に取っていただきありがとうございます。2007年から12年間、わたしは森林浴の案内人として、全国の森にのべ2000人の方々をご案内してきました。森に行けば気持ちが良いし、リフレッシュできる。それはだいたいの人が知っていることですが、これが本当に身体に良いということが近年医学的にわかってきました。免疫機能や自律神経に影響を及ぼし、わたしたちの健康をサポートしてくれる効果があるのです。そんなサプリのような森が国土の約7割を埋め尽くす日本は、世界が注目する健康法を見つけた。それが今海外に注目されている“森林浴”です。

わたしは学生時代に森を学び、その後働く人を悩ますストレスについての対策を専門に活動してきました。その時、日本人と森には深いつながりがあることに気づきました。木材としての木と人の関わり以外にも、日本人は森に入ると懐かしさを感じたり、森への感謝やある種の畏れを感じたりします。それは日本人にとって森は、ただ美しい、気持ちが良いだけの存在ではないと感じているからではないでしょうか。

本書は三つの立場でなんらかの課題を抱えている人に向けて、“あたらしい森林浴”の可能性を紹介します。一つ目は、日々忙しく働き、自然から離れた都会生活を送っている人。二つ目は自分や身内が山林(森)を所有していてなにかに活用したいと考えている人。そして三つ目は、所有はしていないけれど地域や日本の森をもっと活用したい、木材を売ること以外でも森で事業をつくりたいと考えている人です。

日本の森は、地方の過疎化、少子高齢化、木材価格の低下などを理由に人が離れ、放置される、林業経営が立ち行かなくなるなどの課題を抱えています。一方、都会には人がひしめきあい、競争社会に疲れて心の病を抱え、眠れない、イライラするなどストレスに悩む人が多くいます。地方の森と都会、一見無関係に思えるそれぞれの場所にある課題を、一つだけでなく、二つ、三つとかけ合わせて考えてみると、解決の手がかりが見えてきます。「健康」「人材育成」という切り口から森を活用し、地域住民をはじめ、都会で働く人たちの健康に役立て、未来を担う人を育てる。そんな森と人のあたらしい関わり方を提案したのは、そんな理由からです。

全体は大きく6章で構成しました。1章では、なぜ今森林浴に可能性があるのか、具体的なトピックスを紹介しながら、森林浴を知る基礎情報として日本の森林の成り立ちや特徴をお話しします。2章では、具体的なエビデンスを基に「森の健康効果」について様々な研究の成果を参照し、続く3章では、日本発祥の森林浴に関心を持つ海外の取り組みについてご紹介します。後半の4章では、国内で取り組まれている森林セラピーの広がりから、ヘルスケアコンテンツとしての可能性を探り、5章では森林浴の事業をつくるため、12年間地域の森と関わってきた筆者の経験から、具体的な効果や反響、苦労した点、課題など、あらゆる可能性をお伝えしたいと思います。最後の6章では、3年かけて考案した、人材育成に森林浴を活用するメソッドを基に、実際に行ってきた企業研修の事例をご紹介します。

この本が一人でも多くの人を森へお連れするきっかけとなれば幸いです。

2019年6月 小野なぎさ