北欧の照明
デザイン&ライトスケープ



あとがき


 本書は、20世紀を代表する北欧の建築家・デザイナー11 名を対象に、その照明デザインと空間における光の扱い方についてまとめたものである。以下、その経緯について、ここに記しておきたい。
 冒頭を飾るポール・ヘニングセンについては、ルイスポールセン社の全面的な協力を得て、彼の照明デザインについて詳細かつ網羅的に記されている書籍『Light Years Ahead』(ルイスポールセン刊、1964年)より、要約的内容および数多くの図版を掲載する許可をいただいた。さらには、1941 年から2009 年まで刊行された機関紙『NYT』の貴重なバックナンバーも提供いただいている。加えて、荒谷真司氏ならびに島崎信氏による関連文献も参考にさせていただいた。そしてそれらをもとに、オーフス大学、オーフス劇場、チボリ公園などの著者独自の現地調査の内容を盛り込みながらまとめた。
 続くアルヴァ・アアルトに関しては、これまで実施してきた建築調査の際に撮影した照明器具の写真を中心に、アルテック社の工場の現地調査などを加えてまとめている。なお、Alvar Aalto のカタカナ表記については、拙著も含め日本では様々な表記が混在しているが、近年アルヴァ・アアルト財団およびアルテック社では「アルヴァ・アアルト」の表記を推奨しており、本書でもその表記を採用している。
 コーア・クリントについては、レ・クリント社より刊行されている書籍『Le Klint』(2008年)と現地の工房調査などを中心に記述している。一方、フィン・ユール、ハンス・J・ウェグナー、ヨーン・ウッツォンに関しては、彼らがデザインした器具が実際に使用されている事例で体験できるものが少なかったため、書籍やメーカーのカタログを中心にまとめた。残るヴィルヘルム・ラウリッツェン、アルネ・ヤコブセン、エリック・グンナール・アスプルンド、エリック・ブリュッグマン、ユハ・レイヴィスカについては、著者による現地調査を中心に各事例を紹介している。なお、アスプルンドの森の火葬場における「諸聖人の日」の貴重な写真は、照明デザイナーの遠藤香織氏からお借りした。
 本書の各所で登場する照明器具の断面模型は、九州産業大学小泉隆研究室で製作したものである。実際の器具とは三次元的な光の広がりや素材による光の拡散・反射性状などが多少異なるが、器具内部の構造や光の経路などを知る上で有効であり、ここに掲載することとした。
 本書ができあがるまでには、多くの方々にお世話になった。紙面の都合により巻末にまとめて記載させていただいたが、心よりお礼を申し上げたい。なかでも10 年近くにもわたり本企画にお付き合いいただいたルイスポールセン社とアルテック社の協力がなければ、本書は実現しなかったであろう。また、本書の執筆・編集と並行して、「デンマークの灯り展」(九州産業大学美術館、2018 年9 月8 日? 10 月21 日)と「北欧の灯り展」(東京リビングセンターオゾン、2019 年7 月4 日? 7 月30 日)の二つの展覧会を開催したが、その企画が本書の内容にも多分に反映されている。展覧会関係者の皆様にもお礼を述べたい。
 最後に、本書が北欧の照明デザインや灯りの文化を学ぶきっかけとなるとともに、日本における照明デザインの発展と灯りの文化の再発見につながることを期待している。

2019年7月
小泉隆