子育てしながら建築を仕事にする


 正直なところ、執筆者の方たちから充実した生活が垣間見える文章や写真が届くたびに、落ち込んでしまう自分がいたことを白状しよう。皆さんの輝く毎日を垣間見て、凸凹な自分の生活とつい比較してしまったのだ。でもよく読めば、それぞれに想わぬ変化、苦労があり、それに対して様々な工夫をして日々を乗りこなして来たことが伺える。キラキラした部分が目についた読者がいたら、私のように少し気持ちを落ち着けて、読んでみていただきたいと思う。

 私の章を読まれた読者には信じてもらえないかもしれないが、こう見えて私は、子育ては母親が頑張らないといけない、という呪縛に囚われていた一人だ。離乳食をせっせと手作りしていたし、食事の用意を完璧にできなければ出張など行ってはいけない、ような気がして、最初はかなり無理をしていた。最近は、完璧にできないことを悟り、出張の際も、帰りが遅くなる時も、夫に食事の用意まで任せて出かけられるようになった。

 その意味でも、今回男性に登場していただいたのは、とても良かったと思う。母性ならぬ父性に溢れた父親たちの奮闘ぶりを見て、お母さんじゃないとできないことって、産むことと母乳くらいだな、と改めて思うのだ。それすら今後の科学の進歩でどうなるかわからない。だから世の女性たちに声を大にして伝えたい。子育ては男性に取って代わられちゃうかもしれませんよ、と。

 今の日本は、どうやら健康で標準化された大人のための国になってはいないだろうか。保育園の建設に反対運動が起きたり、障害者や高齢者の施設を囲い込んで見えなくしたり。他人に不寛容な社会とも言えるかもしれない。右肩上がりの成長時代は終わり、夫はサラリーマンで妻は専業主婦、郊外のマイホームで子どもがいて…などという、誰にも共通する人生の成功モデルなど存在しない。

 子どもがいる人生も、いない人生も、結婚してもしなくても、個人の自由だし、様々な偶然の産物でしかない。健康な時もあればいつ病気になるかもわからない。生まれたばかりの命もあれば、当然みんな歳もとる。そんな自分の力ではどうしようもない人生を、互いに寛容になって、受け入れられる社会になればと思っている。本書が、その一助になれば幸いだ。そして、数年後、こんな本が必要だったんだなぁ、と懐かしく想われる時代がくるといいと思う。

 本書は、自身も3人のお子さんの母として、仕事をしながら子育てをされている学芸出版社の井口夏実さんの存在無しには実現しなかった。昨年出版した『シェア空間の設計手法』も担当していただいたが、この3年間、公私ともに様々なサポートや励ましもいただいた。この本はまさに2人3脚の成果だ。

 最後に、私の自由な生き方を応援してくれる両親と、深い理解のもと支えてくれる夫、そして仕事に出かける私に、拗ねた顔をして手を振ってくれる息子に、心から感謝している。ありがとう。

2018年1月
成瀬友梨