本書は、現在進行形、生成中の一つのオーガニックな組織をそのまま切り取ってもってきた感じのいささかラフな本である。
  いま時代をリードしている旬の作家である名和晃平と彼が中心となって組織しているプロダクト集団SANDWICHの活動について、文字通り走りながら記述した感じの新鮮さが溢れている。
  その新鮮さは、既存の方法論にとらわれない、決定や組織づくり、制作のプロセスにある。つまりよく言えば試行錯誤の連続、悪く言えば行き当たりばったりにすべてはなるようになってきたというプロセスが、名和のコメントの中に一貫して感じられる。

  サンドイッチ工場を見つけてそのたたずまいやスケールが気に入り、若手の建築家たちにアドバイスを求めながら、プログラムと建築空間のリノベーションプランを同時並行で進めていった。

  「SANDWICHの設備やレイアウトはつくるものに合わせて、使いながら内側からできあがっていった。良い創作環境とは、頭に浮かんだイメージやコンセプトが目の前で次々具現化し、それが刺激的で面白くて止まらなくなるような「場」のことだ。」(名和)

  つまり最初からSANDWICHは事業内容を定めないまま始まり、それが拡張するにまかせて、生き物が成長するように改良が繰り返されてきた、苗床というか、多様な出来事の発生を許容するゆるやかなプログラムをもったプラットフォームのようなものである。
  スタッフが徹夜仕事で寝泊りする必要から買ったベッドがいつのまにかレジデンスに発展していくなど、およそその過程は「計画」「実施」とはほど遠い。

  プロジェクトによっては50人からの人間が働いているファクトリーをどう統合するのか、名和のデイレクションは一つの統合を牽引している。が、実際に組織を統合しているのはアートという実体のもつ以下のような性質でもある。

  「そもそもアートは、社会という与えられた枠組みのなかで発想したり、つくるものではなく、枠組みの内側も外側も許可なく出入りができて、輪郭を溶かしたり、崩すことが可能なメディアである。その自由さへの憧れと中毒性が、アーテイストを動かしている。」(名和)

  プロダクツという名前のもとにアートからデザイン、建築まで広範に活動するSANDWICH。

  「イメージと物質性が共振するような表現を目指すには、最初から最後まで目や手の感覚で確認しなければ良い作品にはならない。」(名和)

  量産ベースのプロダクトや内装で覆われた商業スペースに麻痺してしまった感覚、それを逆手にとり、ズレや麻痺を批評的に扱うことで表現にしうる―その明快なコメントは、いま「生産」と「労働」について再考する時代に多くの示唆を与えてくれる。

長谷川祐子