プロでも意外に知らない〈木の知識〉


おわりに


 「はじめに」でも少し触れましたが、オリジナル(前書)の執筆開始から10年近くが経過して、木材と木造建築を取り巻く情勢は大きく変化してきました。2012年現在で、木造利用には強い追い風が吹いていますが、風を受ける側は何となく地に足がついていないような状態です。
 現在の状況は、フランス料理の料理人が素材(肉や魚や野菜)に関する知識を持たないままに、フライパンを振っているようなものではないでしょうか。レシピさえあれば確かに料理は出来上がりますが、素材の選び方や活かし方を知らないのなら、その料理はせいぜい「☆」を一つもらえる程度のできでしかありません。本書では、何とか「☆☆☆」がもらえるよう、肉牛や野菜の育て方から、収穫や保存の方法、さらには素材の下ごしらえまでを、工学的な知識に基づいて懇切丁寧に説明したつもりです。
 もちろん、ページ数の制限があるため、関連分野のすべてを網羅することはできませんでしたが、入門書としての目標は十分果たせたと思っています。
 本書の内容に興味をもたれて、「☆☆☆シェフ」への道を進みたいとお考えの方のために、巻末に入手が比較的容易な参考文献を載せておきました。ただ、この分野の移り変わりは激しくて、出版時期が古くなった文献では内容が現状とずれてしまっている可能性がありますので、ご注意ください。
 なお、筆者の狭い意味での専門分野は「木質材料」と「木材接合」です。このため、少し専門から離れた基礎的な分野や木材加工の分野については、諸先輩の研究や著書に依拠せざるを得ませんでした。筆者の浅い理解のために、誤解している点があるかもしれません。ご叱正頂ければ幸いです。

 最後になりましたが、編集全般に関しては、前書に引き続き学芸出版社の村田譲氏に大変お世話になりました。記して深くお礼申し上げます。