空き家・空きビルの福祉転用
地域資源のコンバージョン

おわりに


 家・ビル・小学校・店舗・工場などの既存建物を福祉施設に転用(コンバージョン)することが増えてきました。これからの社会状況や地域社会と福祉施設のあり方との関係ついて議論をしていた「福祉施設のあり方研究ワーキンググループ」では、これらの施設を訪問した際、独自の物理的な工夫が施されることで既存建物が持つメリットが最大限に活用されており、利用者もスタッフもその空間で生き生きと過ごしていることが実感できました。
 本書では、多種多様な既存建物を転用した37の事例からさまざまな工夫を紹介し、福祉施設に転用するうえで留意すべき基本的な法律・制度・技術について解説しました。また、既存建物を福祉施設に転用することの意味や価値にも触れました。37の事例を振り返ると、改修費が0円や数百万円から数億円までさまざまな福祉施設があります。もちろん改修費は運営者の資金等によるところが大きいのですが、資金の多寡にかかわらずしっかりした理念とユニークな工夫があるので、利用者やスタッフが生き生きと過ごしているところばかりです。
 本書では各事例の実像を伝えたかったため、紙幅の制約もあり37の事例しか触れることができず、地域や施設種別に多少のばらつきが生じています。事例を絞る前段階で、私たちがリストアップしただけでも多数存在することが確認できたので、読者の方々が住む地域にもきっと優れた転用した福祉施設はあるでしょう。それらも参考にしつつ、本書がこれから既存建物を転用して福祉施設を始める方々のきっかけになり、実現に向けての一助になれば、この上なく喜ばしいことです。
 最後になりましたが、本書に協力していただいた福祉施設や設計事務所等関係者の皆様に、心から感謝を申し上げます。また、学芸出版社の前田裕資様、森國洋行様には出版までの時間が少ないなか丁寧に編集をしていただきました。お礼申し上げます。

一般社団法人日本建築学会                         
福祉施設小委員会「福祉施設のあり方研究ワーキンググループ」幹事
加藤悠介(豊田工業高等専門学校)
松原茂樹(大阪大学)