歴史に学ぶ 減災の知恵
建築・町並みはこうして生き延びてきた

おわりに


本書は、著者が歴史都市の防災研究に取り組むようになって以降15年余りの間に、全国各地で触れ、多くの先生方からお話を聞き、収集してきた「伝統的な減災の知恵」を総覧的に整理したものです。この意味で、世の中にある知見を網羅的にカバーした内容ではなく、筆者の研究分野にいくぶん偏った内容になっています。

また、筆者はもともと建築設計・都市計画の分野に従事しており、歴史都市の防災研究に取り組み始めたのは、歴史ある多くの地域を失った阪神・淡路大震災以降となります。このため慣れない史実の解釈や検証に不十分な点があれば、すべては著者の不勉強によるものです。

それでも本書を書きあげようと決心したのは、震災後の急速な災害対策や復興事業の多くが、その土地の歴史や伝統ある美しい風景に配慮なく進んでいることに対して強い危機感を抱いたためです。本書を通して、防災を根拠に伝統ある町並みや建物をすべてリセットする方向ではなく、逆に歴史と経験値を積極的に活かした「美しく安全な減災のまちづくり」の可能性を広げることに役立てるのであれば、これに勝る喜びはありません。

なお編集をご担当いただいた学芸出版社の知念靖広氏、森國洋行氏には、6年も前から忍耐強くご支援をいただきました。彼らでなければ本書の充実やわかりやすさは実現できませんでした。最後になりますが、グローバルCOEプログラム「歴史都市を守る『文化遺産防災学』推進拠点」のメンバーの皆様、OBを含む研究室の学生諸氏、家族を含む身近な方々には、多大なサポートをいただきました。記して謝意を表したいと思います。

2012年5月 若葉の芽吹く衣笠山麓にて