アルネ・ヤコブセン
時代を超えた造形美

Timeless Design


 デンマークでは大切な人と過ごす「ゆったりとした時間や空間」を一番に考えています。それは辛く長い冬を快適に過ごすための生活の知恵から生まれたものでした。照明器具や家具などのインテリアデザインが発達したのもそこからです。孫の代まで末長く愛用される製品には、時代を経ても美しいデザイン、つまり〈Timeless Design〉が潜んでいます。機能性を保持したシンプルなデザインこそ、時代や国を超えて愛されるものなのです。
 ミッドセンチュリーに活躍したアルネ・ヤコブセンは、家具デザイナーとしてその名が知られていますが、彼の名を知らなくても「アントチェア」や「セブンチェア」を目にしたことがあるはずです。これらの椅子は、究極なまでに無駄を削ぎ落し、機能美を追求した〈Timeless Design〉でした。
 実はヤコブセンの本業は建築家で、彼の建築は今見ても驚愕する画期的なアイディアにあふれています。当時は斬新さゆえ、批判が多かったのも事実です。しかし今改めて見ても、新鮮な輝きを放ち続ける〈Timeless Design〉であることに気がつきます。そして「遊び心」を忘れていません。
 本書は日本語初のヤコブセンの書籍となります。第1章ではヤコブセンの人物紹介をします。頑固一徹で、完璧主義者だったヤコブセン。その一方で、植物を愛するやさしい心の持ち主でもありました。第2章は主要作品の紹介です。デンマーク初の高層建築「SASロイヤルホテル」など、新しい挑戦を続けました。第3章はヤコブセンのこだわりについてです。彼のこだわりを4つに分類し、独自の視点から分析を行います。
 筆者は2006年から2008年までの2年間、デンマークの首都コペンハーゲンで暮らしていました。住所はなんと偶然にもアルネ・ヤコブセン通り。「ヤコブセンについて、しっかり学びなさい!」という神様のお告げだったとしか思えません。いつか将来、ヤコブセンの展覧会を日本で開催することが夢ですが、その前にまず実際に訪れた数々の建築を写真や文章で紹介することが、私に課せられた使命だと思いました。
 さあ、あなたもヤコブセン・ワールドの扉を開けてみませんか? きっと〈Timeless Design〉の虜となるはずです。