キッチンリフォーム成功塾

「見積り」のとり方から「クレーム」のつけ方まで

はじめに

 私は、システムキッチンとユニットバスの施工業者です。メーカーから委託されて、新築やリフォームの現場に、7年間で1500件のシステムキッチンを施工しました。新築でもリフォームでも、システムキッチンの取り付けは、内装工事や設備工事がほとんど終わった段階、すなわち、工事の最終工程で行われますので、それまでに入った業者の仕事の良し悪しが嫌でも見えてしまいます。それでわかったことは、世の中には手抜きやずさんなリフォーム工事を平気でする業者がいるという事実です。そして、それは業者の規模にはあまり関係なく、大手ハウスメーカーでもどこでも、案外施主の知らないところで当たり前のように行われているということです。
  私がもしこの家の主婦だったらこんな工事はしてもらいたくないな、と思うような現場もたくさんありました。たとえば、重い吊戸棚やレンジフードを吊るための下地がないこともよくあります。そのようなところは、しっかりと取り付けることができないので、落下する危険性が高くなります。間違った位置に立ち上げてしまった排水管を立ち上げ直さず、そのままシステムキッチンを設置させようとするところもあります。そのようなところは、無理にキャビネットに穴を開けて設置しなければなりませんので、それがねずみやゴキブリの通り道となる可能性が高くなります。床下で漏水したり、排水の落ちが悪くなったりするかもしれません。また、一人暮らしの高齢者のお宅に、何百万円もする大きなシステムキッチンを入れた業者もいました。
  いずれも、仕事を頼むべきではない業者ばかりです。でも、ほとんどの人は、幸か不幸か、自分たちが業者に騙されているとか、手を抜かれているとは少しも気づいていないのです。無邪気にきれいなキッチンになったと喜んでいる施主さんを見ていると、「世の中には、いい業者もいっぱいいるのに、どうしてもっとまともな業者に頼まなかったのか」とその人たちの運の悪さを気の毒に思ったことも一度や二度ではありません。
  しかし、よくよく考えてみれば、それをただ単純に、施主の運の悪さだけで片付けていいものなのでしょうか。そもそも、大切な家のリフォームを任せる業者を、下手をすれば失敗するかもしれない「運任せ」で選ぶべきではないでしょう。キッチンだけのごく普通のリフォームでも、百万円前後は掛かります。いい設備機器を入れようとすると、もっと掛かります。トラブルに巻き込まれれば、時間的にも精神的にも大変ですから、いい業者かそうでない業者かを仕事を依頼する前にしっかりと見極める必要があります。なのに、現実には、「運まかせ」的な業者選びをしている人が実に多いのです。それはなぜでしょう?
  巷には、どのようにリフォームするかというハウツー的なリフォーム情報は溢れていても、「実際にリフォーム業者とはどういう人達でどのような工事をするのか」という業者についての具体的な情報が非常に乏しいのです。ですから、業者をどう選べばいいのかがわからないし、リフォームの見積り金額も工事の内容に対して妥当か、そうでないのかの判断がつきにくいのです。リフォームに関する情報は、昨今はインターネットでも簡単に見つかります。しかし、業者やメーカー寄りの情報も錯綜していますので、一般の人は、誰のどんな情報を信じればいいのかわからないというのが正直なところでしょう。
  「見えるところにはうんとお金をかけて、見栄えを良くし、見る人の心をつかみ、隠れてしまうところは、どうせわからなのだからいい加減でもかまわない」。そのような風潮が今の建築業界にはあるようです。一般の消費者がそのような見せ掛けの豪華さに惑わされることなく、本当にいいものを選べるようになるためには、「役に立つ情報を集めて賢くなる」しかありません。そのお手伝いができればとの思いから、私の経験を本にしようと思い立ちました。
  本書で得られた知識を活用して業者との折衝にあたれば、業者の応対の仕方も変わってきます。「まったくリフォームのことを知らない人」と「リフォームのことをよく知っている人」とでは、業者の対応が、残念なことながら歴然と違います。後者の方が当然ていねいに仕事をしてもらえますし、交渉上手になり、結果的に安くていいリフォームができます。
  多くの方が、ご自身が納得のいく素敵なリフォームをされることを心から願っています。
                                              福持 礼子