ネクストアーキテクト


はじめに
 この本は彩都IMI(インターメディウムインスティテュート)大学院スクールにおいて行われた、ゲスト講師のインタビューの記録である。私が講座ディレクターを務める建築・都市講座に招いたゲストによるレクチャーのあと、日常の風景として気楽なインタビューを行い、これに皆さんが快く答えてくれたものだ。IMIは、大阪において十年ほど活動し、最先端のメディアアートを学習そして実践する媒体として変容しながら存在している。その授業の一部で30〜40代の建築家を招き、社会の先端と並走する彼らの活動を紹介してもらった。そのあとに建築家として活動する背景を、若い研究生たちへのメッセージとしてインタビューに答え、語ってもらった。建築論などの概念的なことばではなく、子供のときや学生時代の状況など、彼らの現在を作り上げたものはなにか、影響を与えたものはなにかを直接的に問い、そして答えてくれている。インタビュアーは、ここに登場する多くの建築家との日常的な交流を背景にもち、年齢的にも近い立場にいる遠藤が通して担当した。各人の作品の説明や建築論は事前のレクチャーで聞いているため、その後のインタビューはやや日常的な会話になっているきらいがあるが、そのぶん、なまの姿が浮き彫りになったのではないかと思っている。

 1960年生まれの自分が育ってきた背景には、東京オリンピックが終わり、大阪万博が始まるころから具体的な記憶となって残っている。その後も経済成長期を通して建築を学び、独立する頃にバブルが崩壊し、一連の出来事がほぼ終焉してから本格的な活動に入っている。当初は住宅や小さな公共建築を手がけてきたが、やがて規模も少しずつ大きくなってきた。ここに登場する建築家達はそれぞれ異なる活動場所や背景をもち一様ではないが、建築が歴史的に有してきたとする強さや永遠性を単純に信じられない点においては、気分を共有していると思っている。しかし、戦争のあとの廃墟にみる未来への不信感に覆われているわけでもない。そして、オウムや阪神淡路大震災を通過してはいるが、建築を構想し実現することに多大なエネルギーを注ぎ、その可能性への信頼を失ってはいない。明確な何かを信じているわけではないが、状況に背中を押されながら、建築と向き合うことを楽しみとしている気分は、部分的共有としてあるのではないかと、この一連の会話を通して実感している。
  『ネクストアーキテクト』とは少々大げさなタイトルであるが、現在進行形でもあり、ここに登場する八人以外の多くの建築家も含め、今後に期待し、近未来をながめながら、肩の力を抜いて楽しく読んでもらえれば嬉しい。

遠藤秀平
2007年2月