みんなのリノベーション


おわりに

 この10年
  アートアンドクラフトがリノベーションを始めて、もう10年目になります。その間に、リノベーションという言葉はずいぶんと知られるようになったし、リノベーションして暮らし始める人も増えました。需要が増えたので、不動産業者や設計事務所からリノベーションに参入する事業者も現れ、それに対応する住宅ローンが生まれたことが、リノベーションの増加に拍車をかけています。喜ばしいのは新築しか教えてこなかった大学教育の現場で、リノベーションを研究する学生が増えたこと。優秀な人材が育たないと未来がないですから。たしかに、この10年で状況はずいぶんとよくなったと思います。その間、僕がずっと言い続けてきたのは、もっと建物を「リノベーションして使いましょう」ということと、もし建物を壊して新築するのだったら、「いいモノを作りましょう」ということ。いい建物だからこそ人は愛着をもち、「長く使っていこう」という気持ちになる。良質なストックがあってこそのリノベーションなのです。

  ところがこの10年、新築でも住宅は数多く建てられているものの、残念ながら魅力的なストックが増えているとは思えません。経済効率ばかりが重視され、早く作るということと、安く作るということが必要以上に求められているからです。建築士は十分な設計期間を与えられず消化不良の状態でパターン化した図面を描き、工事の施工者も手間のかからない簡単な工法で作ることになる。結果、人の想いがこもっていない建物が増えています。それでは魅力的な住宅が生まれるはずもない。「量から質へ」「スクラップ&ビルドからストック活用の時代へ」と言いながら、いまだ数ばかりを追求しているのが現在の住宅業界です。人口が減少し始めた日本で、都心の超高層マンションやニュータウンの一戸建てなど、毎年100万戸以上もの住宅をあらたに作る必要はあるのだろうか。だから空家は増え続け、とうとう僕が暮らす大阪市では17%ものストックが空家になってしまった。大量の新築は地球環境へも悪影響を及ぼすし、まるで雨後の筍のようなタワーマンションの乱立は、地域のまちなみや景観を急激に変えてしまう。あきらかに日本は住宅を作り過ぎている。

  10年の間にアートアンドクラフトには、リノベーションしようと数多くのお客さんが訪れてくれました。でも、地球環境のためや景観保全のためにリノベーションしているわけではありません。自分のスタイルを作りたいとか、自分の身の丈に合ったコストで満足ゆく住まいが欲しいという理由で、リノベーションを手段として選択しています。すでに実践した人たちは、住まいづくりそのものをとても楽しみ、満足して暮らしているように見える。僕はもっと多くの人がリノベーションすることを望んでいます。正直、リノベーションで住まいを手に入れることはお勧めだし、この本の読者からも、ひとりでも多くの人に実践して欲しいと思う。結果として、ひとりひとりの行動の蓄積が、日本の景観や地球環境を良くしてゆくと、実はホンキで考えているのです。ぜひぜひ、リノベーションでの住まいづくりを楽しんでください。
  最後になりましたが、この本の出版を企画し、その後の編集でも尽力いただいた学芸出版社の井口さん、本当にありがとうございました。そして、アートアンドクラフトのスタッフへもひとこと。リノベーションがきっといいんだと信じ、いっしょに突き進んできてくれてありがとう。心より感謝しています。  

中谷ノボル
平成19年1月15日