成熟のための都市再生


あとがき

 この原稿をほぼ書き終えたある日、淡路島の洲本で昼食をとるため、赤煉瓦建築を改装したレストランに入った。外は突風で、煉瓦の頑丈そうな壁に比べ、いかにもか弱そうな一枚の窓ガラスが風に耐えている様が、痛ましくもあり心強くも感じた。思えば、数十センチもある外壁と、わずか数ミリの板ガラスが同じ力に耐えているのだ。激しい気象条件の変化から人を守るという建築の役割を、もっとも強く物語っているのは窓であると改めて実感した。
  元来、私は雨が嫌いなたちなので、本書を振り返ってみれば雨の日の窓について、ほとんど触れていなかった。窓はどんな天候の時でも建物とともにあるものだから、もっぱら晴れの日を念頭に書いた私の文章は視野が狭いといわれるかもしれない。天候による窓のイメージの変化は、また時を改めて書いてみたいと思う。
  このように、本書で記した窓と建築の関係は、窓のごく一面に過ぎない。むしろ、ここで書かれていない窓の魅力を読者が発見し、建築に親しみを持っていただければ幸いである。
  私が窓に興味を覚えたのは、学生時代、何人かの先生方から建築意匠における窓の重要性を断片的に聞きかじり、それが常に心に残っていたからだ。しかし、実際に窓のことを調べてみたいと思った時、窓について書かれた文献が意外と少ないことに気付いた。建築関係の本では、建具や建築金物といった窓の構成材料のものが若干あり、他には設計に役立つ詳細図集が大半を占めていた。他方、窓は建築以外の分野から注目され、幾冊かの優れた本や写真集があった。私はそれら建築内外の文献から多くを学ばせていただいた。
  窓に関する雑多な観察や研究の成果は、私の勤務する大阪歴史博物館での建築講座「窓からはじめる建築鑑賞」で話す機会があり、そこでの参加者との対話から学ばせていただいたことも多かった。その後、学芸出版社編集部の永井美保さんから、窓からみた近代建築について書いてみてはどうかとのお話をいただき、この本の構想が出来上がった。
  しかし、話をすることと書くことでは大違いで、執筆に約束の何倍の時間がかかってしまったか、今では思い出すことすらできない。休日は建築をみに出かけることを楽しみとしていたが、いつしか文章を書く日々となり、運動不足気味になった。おかげで、自宅近くの河川敷を走ったり歩いたりする、という新たな過ごし方を見いだした。
  そんな楽しみながらの執筆で、編集者には大いにご迷惑をおかけしたことと思う。永井さんの丁寧なチェックとアドバイスのおかげで、なんとかまとめ上げることができた。本作りを建築にたとえれば、私はスケッチを描くようなもので、編集の仕事はそれを原寸図に起こして確認し、現場監理をするようなものだろう。しかも、プロデューサーも兼ねている。編集者とのやり取りには、プロの気迫を感じた。また、表紙写真のために休日に何度も足を運んでくださった小林淳男さんと、美しい装丁をしていただいた山本剛史さんのおかげで、内容以上に立派な本に仕上がったと思う。
  さまざまな人びとから直接、間接に学んだことがこの本には反映されています。図版掲載、編集、出版にご協力いただいた方々に改めて、御礼申し上げます。また、温かく見守ってくれた妻に感謝します。そして、最後まで読んでいただいた皆様、どうもありがとうございました。

酒井一光
平成18年春