これから価値が上がる住宅地


書 評
『建築とまちづくり』(新建築家技術者集団発行)2005.8
  今最も関心をもたれていることに住宅の寿命と社会ストックがあります。これは単に、寿命ということだけではなく、人間的な住まい環境としてのコミュニティ形成の問題と一体化している問題です。課題としては、建物寿命の長命化、間取りの更新に対する対応、コミュニティ形成のための共同化、質の高い街並と景観、そして計画的な町の更新、計画的な分譲などが考えられます。
  本著は、具体的な事例を挙げながら、敷地や建築物の一部を共同化することがコミュニティ形成に繋がっていくということを、具体的な事例を通して理解できるように進めています。
「家の前の道は私たちの道」
「小さいけれど、たくさん利用できる庭」
「塀がなくても安心な街」
「共有は美しい住環境をつくる」
「借地は安心で快適」
「ルールがある方が自由」
「管理組合は住宅地の価値をあげる」
「古い住宅地の良さは持続性にある」
  このように目次を見るだけで、読んでみたくなる内容です。さらに、アンケートを約3000軒の住み手からとり、しっかりと裏づけができているところに大きな説得力を感じます。
  「魅力的な住宅地には誇りを持って住んでいる魅力的な人が多く、その人たちはたいへん親切です。そんなひとびとに出会い、私も『こんな住宅地に住みたい!』と心から思いました」という著者のあとがきには、本当に実感がこもっていました。
(ま)

『新建築住宅特集』((株)新建築社)2005.6
  昨今、日本の住宅の問題として、コミュニティ崩壊、高齢化、過疎化、災害、犯罪、資産価値低下などネガティブな話題をしばしば耳にする。著者は日本で唯一という不動産学部の教授であり、本著では、道、庭、塀、共有スペース、管理組合など8つの項目にわたって、住宅単体だけでなく、住宅地や地域全体への問題提起と、解決への明快な提案をしている。特に第5章での定借コモンについてのコラムは、行政、地主、居住者を包括した提案であり、これまでの所有や住宅という概念に一考を促すような内容である。非常に平易な文章で読みやすく、紹介されている全国の住宅地の事例や写真も興味深いので、是非みなさんにも一読を願いたい。