わが家をエコ住宅に
環境に配慮した住宅改修と暮らし

 

 通勤途上の出来事だ。いつも通る道に面した戸建住宅が、ある日工事用のシートに覆われた。空き家になっていたのは気配でわかっていたが、見た目にはまだきれいだし「外壁の補修でもするのかな」と思った。ところが、翌日になると取り壊しが始まった。それも大きな機械がバリバリ、ギシギシと音を立て、床でも壁でもかまわず砕き引き裂いていく。たった1日でその家はゴミの山となってしまった。何ともったいないことか。それに、ゴミは一体どこへ行くのだろうか。
 夏の朝、これも駅までの道にある家の生け垣の下から熱風が吹出してくる。冬は反対に冷たい風。エアコン冷房と暖房の排気が通りに吹き出しているのだ。家の中にいる自分達だけが快適に過ごし、外の他人を不快にさせている。エアコンなしには暮らせなくなった現代社会の堕落を感じる。
 このようなことを続けていたら、我々の未来はどうなるのだろう。産業廃棄物だらけの風景、汚染された地下水と土壌、エネルギー危機、異常気象そして食糧危機。食べる、住むという生活の最も基本的なことが危うくなり、これまで追い求めてきた「豊かさ、便利さ、快適さ」などは全く空しいものになってしまう。
 日本の戸建住宅は、平均30年未満で取り壊されているらしい。欧米の100年前後と比べ、あまりにも短命だ。「新規着工戸数」と言えば経済成長に貢献しているかのようだが、その陰でゴミとなってゆく膨大な数の住宅があることを忘れてはならない(そもそも無限の経済成長などありえないことなのに)。使い捨てられた廃棄物が我々の未来を閉ざす。もっと住宅を長持ちさせなければならない。耐久性のある住宅の新築も大切だが、今ある住宅を改善しながら使い続けることの方がもっと重要だ。
 「環境への負荷(悪い影響)を少なくし、健康で自然と共存する」という理念で推奨されているのが「環境共生住宅」だ。「エコ住宅」と呼んでもよい。具体的には、「自然素材を使う」「有害物質を避ける」「リサイクル等で廃棄物を減らす」「断熱性を高めエネルギー消費を減らす」「自然エネルギーを利用する」「自然や周辺環境と調和する」ことなどを取り入れた住宅のことをいう。このような住宅は、次第に住み手の共感を呼んでいる。しかし、その実現はまだ限られた人とプロジェクトにとどまっている。
 自分の家を建てることは、昔に比べある意味で簡単になった。土地とお金の手当てがつけば、専門家やハウスメーカーの力で家は建つ。しかし、それで心から満足のゆく家になる保証はない。家を建てることが人生の目標だとは思わないが、重要な判断と大きな費用負担、そして生活の基盤づくりであることには違いない。自ら勉強し考えを尽くせばもっと良い住宅はできる。お金が足りなければ知恵を出すのは当然として、お金にゆとりのある人こそ、よく考え丁寧な家づくりをして欲しい。
 毎日の生活、近い将来の夢ばかりに目が行き、遠い将来の危機は他人ごとのようではっきり見えない。しかし、地球環境の破壊は間違いなく進行している。このままでは、我々の未来、子孫達の幸せな生存は危うい。この異常な時代、転換なしには明るい未来がない時代に、住まいは地球環境に対しどのような関わりを持つべきか。永く住宅、住環境の設計に携わってきた私にとって最大の関心事だ。
 この本は、そのような私の思いを自分の家づくりで実現した記録と自己評価である。これから自分の家を作ろう、または直そうと思っている方々、そして職業として住宅づくりに関わっておられる方々の参考になり、エコロジカルな住まいの普及に役立つことを心から願っている。