事例に学ぶマンションの大規模修繕


出版にあたって


 我が国のマンション(分譲集合住宅)は、東京オリンピックを境に供給された都心のマンションを契機に、高度成長の波に乗って郊外の集合住宅団地も大量に供給され、その後、幾度かのマンションブームを経て、今日の都市型居住の地位が築かれてきた。建設省(現国土交通省)の建築着工統計によると、2000年末で386万戸に達し、約1000万人が居住していると推計される。一方、供給戸数を経年でみると、2000年の時点で、20年を超えるものが全体の1/4に近くにも達し、25年を超えるものが50万戸にもなって、社会的にマンションの維持・管理問題が重要な課題となってきた。
 マンションは新築後10年も経過すれば、その規模の大小に関わらず、建物の傷みが進み、大規模修繕の時期を迎える。しかし、一般的にはマンションの仕組み(区分所有法など)を理解している居住者は甚だ少なく、いざ実施となると、長期修繕計画が未整備であったり、修繕積立金の不足などによって、居住者の合意形成がなかなか取れないケースが多い。その上、修繕計画の実施が合意された段階になっても、設計や工事予算、施工会社の選定など、修繕工事そのものをどのように進めたらよいか分からない管理組合(居住者)が多いのも現実であろう。
 かねてから、(財)住宅総合研究財団はこの問題に強い関心を持ち、そのような管理組合(居住者)の人たちや、工事に関わる設計事務所、管理会社、施工会社などの方々を対象に、直接役立ち、分かりやすい解説書が必要であると考えていた。そこで、マンションの大規模修繕に造詣の深い3人の専門家の参加のもとに、財団内に「マンション大規模修繕研究委員会」を設け、本の執筆・編集にあたることとした。
 本稿の編集にあたっては、少数事例のサクセスストーリィーではなく、数多くの事例を提供し、読者に相応しい助言を与えられるよう配慮して、次のような骨子で進めた。
・大規模修繕計画の事例を工事内容別、規模別に分類し、計画推進の手法・経緯を述べ、問題解決のポイントについて具体的に解説する。
・大規模修繕計画を管理組合独自で進めることは難しく、管理会社・設計事務所・施工会社をパートナー(協力者)にして行うのが一般的である。しかし、パートナーによってそれぞれ特性があるため、選択の基準、計画への関わりかたや、責任と権限のあり方を明確にしておくことが重要となる。本稿では、パートナーごとの進め方の特徴について事例を通じて解説する。
・大規模修繕計画は、標準的なプロセス通り進まないのが実情である。事例を通じて、標準通り進められなかった要因と問題点を明らかにして、各プロセスで見逃してはならないことなど留意点を分かりやすく解説する。

 以上の骨子に則り、全体を3章構成として各章立てを次のように考えた。
 第1章では、マンションの大規模修繕計画に対する基本的な取り組み方について、長期修繕計画の目的・策定・見直し、修繕積立金の目安、および修繕工事の各プロセスで発生する問題点・留意点を解説する。
 第2章では、マンションの大規模修繕の実施例を25事例用意し、どんな工事を、どの規模(戸数)で、誰をパートナーにして計画を進めたかにより分類し、多様な工事種別、マンション形式に応えられるようにする。そして、各事例ごとに、全体の流れの中で、管理組合・パートナー・施工会社がどのように関わったかを示すことで、様々な進め方の実態を一覧出来るようにした。
 第3章では、第2章の事例を踏まえて、工事の企画・内容検討・工事の実施・竣工の各プロセスでの検討事項、問題点、留意点を解説する。そして、管理会社・建築設計事務所・施工会社・専門工事会社などをパートナーとした時のメリット・デメリットについても解説する。特に、東京・横浜の中心部で大半を占める、維持・管理上問題の多い小規模マンションを取り上げ、管理運営上の難しさと大規模修繕工事を進める上での留意点を解説する。
 以上、さまざまな形態のマンションでの大規模修繕計画に役立つよう、事例を中心に、経緯や特徴、工事費など出来るだけ具体的に解説することに努めた。

 最後に、本書を作成するにあたり、資料提供等ご協力いただいた管理組合、設計事務所、管理会社、施工会社等の方々に厚くお礼申し上げます。この本が、読者が直面している大規模修繕計画の策定や実施計画の推進に少しでも役立つことを希望いたします。

2001年11月 (財)住宅総合研究財団 マンション大規模修繕研究委員会
柴原達明









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