Gロゴ

京町家・千年のあゆみ

都にいきづく住まいの原型


あとがき

 本書は、これまで私が京都とその町家に関連して書いた論文などを集成した論文集というべきものである。二〇年以上にわたる研究の結果を一冊の著書として公刊するにあたって、あらためて〈京都の町家〉の長く豊かな歴史をかえりみて全体の構成を考え、また多くの人に読んでいただけるように、各章の最初のところにリードを記し、全体に加筆修正をするなど、わかりやすさを念頭において工夫をしたつもりである。

 本書に収録した中でもっとも古い一九七四年の論文は、私が京都の町家について書いた最初の論文であるが、それを読み直して、かつて町家の都市建築的な特色に関心をもっていたことなどが思い出されたり、またそれが四半世紀も前のできごとであるという時の経過の早さなどに、多少の感慨があった。もっとも新しい一九九六年十二月の論文もまた、対象とする時代が古代であるとはいえ、最初のものと共通する視点がある。私としては研究の一貫性をそれほど意識していなかったと思っているのであるが、このことは、やはり初心の思いの深さを示しているのであろう。

 二十世紀最後の一〇年ほどのあいだに、京町家の保存と再生、その意義と面白さなどが広く社会に認知されるようになった。こうした大きな潮流をつくりあげたのは、京町家をめぐるさまざまな人々の活動の相乗作用であったといえようが、そのなかで中心的な役割を果たしてきた組織の一つに京町家再生研究会がある。私は、この京町家再生研究会に当初から加わっているが、申し訳ないことに普段の研究会に参加することも、実践的活動にかかわることもほとんどなく、ただ一年に一度ほど、京町家の歴史を会員の方々にお話しすることによって、やっと会員としての役割を果たしている(と自分では思っている)。

 本書が生まれるきっかけとなったのは、一九九九年十二月十一日に開催された京町家再生研究会の例会における発表である。もともと京都の町家について書いてきたものをまとめて一つの本にしたいと考えていたところに、この機会が与えられたので、本書の原形となった構想をそのまま会員の方々にぶつけてみたのである。「現代の暮らしに生きる 京の「みやこ」と町家 そして千年の未来へ」と題し、スライドを交えて二時間をはるかにこえる発表であったが、たいへん熱心に聞いていただいたこと、また私も気持ちよくお話しできたことが今も鮮明に記憶に残っている。会員の反応に自信を得て、京町家再生研究会の熱心な会員で、学芸出版社の社長でもある京極3476宏さんに出版の相談をしたところ、ご快諾いただいた。本書の出版は、ある意味で、京町家再生研究会の方々のおかげであるともいえよう。

 本書の最初の読者であり、編集担当者である永井美保さんには、原稿をていねいに読んでいただき、多数の有益なコメントをいただいたことに謝意を表したい。

 私事にわたるが、妻晶子には初校と再校に目を通してもらった。論文を完成させると関心を失ってしまい、自分の原稿をみるのも苦痛に感じる私には、ずいぶん気が楽になる手助けであった。

二〇〇一年 五月
   高橋 康夫


 はじめにへ
 もくじへ

学芸出版社
『京町家・千年のあゆみ』トップページへ
学芸ホーム頁に戻る