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ユニバーサル・デザイン


おわりに

  本書は1998年と2000年に行ったおよそ60人の関係者へのインタビュー記録をもとにしています。そしてそれらの軸になっているのは、やはりロン・メイスとのインタビューです。

  ロンとはずいぶんじっくりと話し合いました。それ以前にも何回かインタビューをしてはいましたが、1998年5月には、彼の自宅に泊めて貰いながら広範囲にわたるインタビューをしました。そして同年7月には再び彼を訪ねて、6月にニューヨーク州ロングアイランドで開かれた国際ユニバーサル・デザイン会議「Designing for the 21st Century」やユニバーサル・デザインの広がりについて、再度インタビューをする予定でした。しかしその直前にロンは逝ってしまったのです。あまりにもあっけない出来事でした。まだまだ聞き足りないことがいっぱい残っていたのに……。

  1998年6月29日の朝、私はボストンのアダプティブ・エンバイロメンツの事務所にいてロンの訃報を聞きました。突然のことに思わず大きな声をあげてしまったことを覚えています。

  その後、彼の家を訪れた私の手を取って、ジョイは涙をいっぱい浮かべていました。廊下には彼の生前から壁を飾っていたドライフラワーの葉が散乱し、吹き込む夏の風に乾いた音を立てていました。

  夜、彼の家の庭にレズリーをはじめとする親しい人たちが集まって、静かに彼の魂を送りました。ろうそくの光がゆれる中を、ホタルがゆるやかに舞っていました。

  その夜、私はこの本を書くことを決意しました。ロンとじっくりインタビューをさせてもらった者として、何か責任のようなものを感じたのです。

  大量のインタビュー記録から誰のどこを取り出すかは、全て私の独断です。従って本書が公平な視点に立っているという保証はどこにもありません。しかしそれにしても、日本で一般的に言われているユニバーサル・デザインに対する理解とアメリカのそれがずいぶん違うということは明らかです。

  日本にアメリカの考えを伝えたところでそれが何になるのか、と問われれば、「よくわかりません。何にもならないかもしれません」とお答えするしかありません。それぞれの社会における理解はそれぞれの社会の考えを色濃く反映したものになります。ですから、違う社会の考えを無理強いしても大した意味はないかもしれません。しかしそれでもあえて私はこの本を書くことにしました。それは、アメリカの人たちの話の中に、私たちが見落としてはならないとても大切なものが沢山含まれていると思ったからです。

  本書は沢山の方のご協力がなければできませんでした。要所にご助言を下さった三洋電機株式会社の柳田宏治さん、本書の企画、刊行に当たって細かなご指導をいただいた学芸出版社の前田裕資さん/永井美保さん、忙しい時間を割いて丁寧にインタビューに付き合ってくださったアメリカの友人たち、資料や情報の確認作業でご意見を頂いた方々、そのほか本当に沢山の方々のご協力に深くお礼を申し上げます。

  なお本書は、印刷媒体によるご利用が困難な方のために、テキストデータを実費でご提供いたします。


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