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スケルトン定借の理論と実践

完全解説 つくば方式マンション


あとがき

  21世紀を目前に控えて、変革の荒波が押し寄せ、巷間では構造改革が声高に叫ばれている。右肩上がりの経済が終焉し、少子・高齢化が進展していくなかで、これまでの土地活用や居住の形態はより多様化し、そしてこうしたニーズを取り込むべき不動産・住宅建設業界も当然に変革を求められている。しかし、住宅供給手法は従来のパターナリズムから依然脱却できておらず、ユーザーは限られた選択肢から土地利用や居住の形態を選ぶことを余儀なくされているのが現状である。

  元来、長期的ビジョンを念頭において戦略を立てることは我が国民には苦手とされてきたが、時代や状況が大きく変容していくなかで、今までのややもすれば刹那的とさえ映る土地活用や居住の手法に飽き足らない、合理的な人間が確実に増えてきているように思う。こうした需要に応え、従来型の住宅供給手法には欠けていた長期的戦略をも包含した新しい仕組みとして、本書で紹介したのがスケルトン定借(つくば方式)である。

  スケルトン定借の開発は、本書の執筆者の一人である小林秀樹氏が主唱され、スタートした。思えば、私自身が開発に関わった契機は、恩師・稲本洋之助先生(東京大学名誉教授)のもとで定期借地権の法制度を学んでいるときに、建築学研究者で定借活用に取り組んでいるユニークな方がいると、知人から小林氏を紹介されたことだった。以来、いつの間にかスケルトン定借の研究・開発・実務・普及にと、微力ながら協力させていただき現在に至っている。小林氏のような整然たる理論、笑顔を絶やさないご講演ぶりには、とうてい私など及ぶところではないが、研究に専念されるのみではなく、常に現実を視野に入れて研究を実践に移されてきた氏の姿勢は、私にとって敬服の対象であり、秘かに目標としてきたところでもあった。これまで7年ほど、おつき合いできたことを本当に嬉しく思う。また、小林氏を介して多くの方々と知遇を得ることができたが、今回の執筆陣も、皆それぞれが他に業務を抱えながら、これまで共にスケルトン定借の理論構築、また実践普及に力を尽くしてきた、いわば同志である。そして、その普及に少しでも貢献できればとの思いで、我々のこれまでの成果を著したのが本書である。

  スケルトン定借は、四年前に第1号の事例が出現してから、多くの人々に興味をもたれてきたにもかかわらず、事例が爆発的に増えているわけではない。最大の理由は、その内容がなかなか理解されにくいことにある。小林秀樹氏の前著『新・集合住宅の時代―つくば方式マンションの衝撃―』(日本放送出版協会・1997年)において、スケルトン定借の理念や概略についてはほぼ伝えられたように思うが、実際に事業を企画されたい方からは、教科書的なマニュアルが渇望されていた。また、基軸となる法律や建築の理論についても、当該分野をはじめ多分野の研究者の方々から開示を求められてきた。本書は、こうした要望に応えるべく、実践のための解説書としての性格を有しながら、理論的な学術書としても通用するような内容とした。特に、法的構成に関して、今まで非開示としていた契約約款を概要ながら添付できたことは画期的でさえある。普及に役立てることができるならばという、当初の共同研究参加者(企業)による英断と好意の賜物である。ぜひご活用いただければと思う。

  本書により、様々な立場の少しでも多くの方に関心と理解をいただければありがたいし、刊行の目的も果たせたこととなる。

  また、普及を促すための機関として、我々が創設及び運営にも関わってきたスケルトン定借普及センターの連絡先を末尾に記した。ぜひ気軽にご相談・ご利用、また、よろしければ会員としてのご登録をいただければ我々にとっても幸いである。

  なお、本書をまとめるに際しては、多くの方々から御協力を賜った。まず、巻末に付した実現事例集の作成にあたっては、各事例のコーディネーター・設計者・施工者の方々から貴重なデータを提供いただいた。また、住戸内というプライベートな写真についても、各入居者の方から、掲載について快くご承諾を頂戴した。さらに、この事例集の編集については、スケルトン定借普及センターの古澤のり子氏に手伝っていただいた。この場を借りて、皆様には厚く御礼申し上げたい。

  本書刊行のきっかけは、一昨年の夏に、私が学芸出版社の社長である京極迪宏氏と、京都市の町家調査で偶然にご一緒させていただいたことに遡る。私の出身地で思い入れも深い京都で、ということに特別の御縁を感じるとともに、出版の機会を与えてくださった同社の御高配には深く謝意を表したい。また、実際の編集にあたっては、同社の前田裕資氏、永井美保氏にたいへんお世話になった。特に永井氏からは、「素人なのでわかりませんが」などとおっしゃいながらも、十分に鋭く、かつ適切なる助言を幾度となく頂戴した。また、最多の執筆分担を負ったこともあり、特に筆が遅れがちであった私を、絶えず叱咤・激励していただいた。当初の構想に反し、企画から刊行まで2年という長い歳月を費やしてしまったご迷惑をお詫びするとともに、ここにあらためて感謝申し上げる次第である。

  最後に、本書刊行を待たずに昨年末に急逝された、故・橋本晴夫氏についてふれたい。氏は生前、さるゼネコン幹部の地位を投げうってまで、誕生間もないスケルトン定借普及センターの常任運営委員としてご奮闘くださった。当時、活動が軌道にのるかどうかの瀬戸際であった同センターは、氏のご活躍により、多大なる寄与を賜わった。もし氏が本書の刊行を聞けば、どんなにか喜んで下さったかと思うと、残念でならない。我々の同志でもあった、故・橋本氏のご冥福を心よりお祈りするとともに、生前の氏のご尽力に謝意を表し、謹んで本書を御霊前に捧げたい。

  2000年10月

執筆者を代表して 竹井隆人

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