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風土の意匠

次代に伝える民家のかたち


メディア書評




新建築 2000.5月号

 建築に関心のない人びとにも昔ながらの民家のもつ文化財的価値が多少なりとも受け入れられるようになった今日、日本の民家に対する関心は次第に薄れつつある。その一方で、民家園のような場所に真新しい輝きをもって生まれ変わってしまった民家が多くの観光客を集める姿を見て興ざめした人びとは数知れないであろう。風雪を耐え抜いてきた民家は、現地に残されてはじめてその土地その土地の風土を物語る時代の生き証人としての存在価値が生まれるというものである。筆者は、そのような視点から現在も人が住み暮らし、時と共に変化しつづけてきた住宅を具体例に各地域に見られる日本の原風景としての民家を探訪している。


JT 2000年5月号

 民家はその土地の気候や歴史、地場産の材料、職人の技術や構法により、伝統的な住まいのかたちとして受け継がれてきた。日本の民家から学ぶことは、いまや見聞・経験の少なくなった伝統的家屋やそれをつくってきた職人技を知ると同時に、現代の日本において建築に携わる者にとって重要なことであると思われる。本書でも、民家を単に歴史的建築遺産としてのみ取り上げるのではなく、日本各地の風土や歴史を考えていくうえでの重要な文化としてとらえ、日本各地の住まいかたについても考察している。民家の歴史的・技術的変遷を論じつつ、日本各地に残された多数の民家を、1990年から1999年にかけて現地取材した記録を、豊富な写真で併載している。


鞄本屋根経済新聞社 2000.5.28

 「風土の意匠」―次代に伝える民家のかたち―」は、建築工学博士・浅野平八氏が日本各地の伝統的な民家を探訪した記録。地域性あふれる「屋根」を見つめる著者の目は温かい。
 「昨今の建築家の学生は竹、壁土、瓦の種類などほとんど知らない。これでいくら“天然材を使った健康住宅”と木造住宅を宣伝したところで実体とは結びつかない」。
 「建築の『築』とう字は竹、土、瓦、木からできている」―。かつて身近にあった風土と建築の原風景を再生産できないものかと著者はつづる。
 各地域の八十タイプにおよぶ屋根のイラストは必見。島根県の項では石州瓦も登場する。
 

民家 第14号

 日本は小さい島国であるが、一方において明確な四季を持っている国でもある。また、南北に細長い地形のため、気候や季節についての地域差が大きい。これらの条件が相俟って各地域に特徴的な民家のかたちが作られてきた。これらを鑑みると、著者の言うように風土と建築は深く関わっており、民家のかたちは風土の意匠といえるだろう。
 全国の民家三六か所を六つのテーマごとに紹介し、民家がその地域の気候・生活・産業・歴史等とどのように関わり、反映し、伝承されてきたか説いてある。とくに雨・風・雪による影響は間取りや屋根型に典型として表れ、民家のかたちを特徴的な物としている。明治以前の小さい会社においては地産地消(地場のものを地域で消費すること)は当然であり、それ故に特徴的なかたちが生まれてきたのもうなずける。
 私達はふだん民家に関して意匠・機能・環境・健康等の側面から注目することが多いが、地方(地域)の生活・産業・風土等について思いをめぐらすことは疎くなってしまった。むしろ民家はそれらに立脚して存続してきたからこそ、強い存在感をもっているのかもしれない。
(神奈川県・友の会会員 麓喜之)






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