やさしい火災安全計画

まえがき


 建築はそれぞれ多様な役割を持っていますが,どの建築でも,そこで生きていく人々の安全を確保するというのは共通の使命です。しかし,近年,大規模な建築や,これまでになかったような新たな空間の建築が多くなってきており,安全確保ということも単に法規を守っていればよいというわけにはいかなくなってきています。こうした最近の建築の設計では,安全性ばかりでなく,常に総合的視点から設計を進めていくことが設計者に求められています。

 従来,防災計画は意匠設計の担当者が設計をほぼまとめた後になって,設備や防災の担当者が,法規に適合するように防災機器の配置や区画の仕様を決めるといったやり方が多かったのですが,このやり方では,せっかく美しいデザインだったところを修正して防火扉を設置せざるをえなくなったり,コストをかけて無理に法規に適合させても安全性が向上しない場合もあります。建築設計の初期段階から,安全確保のことを念頭に置いておけば,もっとよい解決策があるのにと思われるケースがしばしばみられます。

 一方,設計自体も建築基準法の改正にともない,仕様を満足していればよいという考えではなく,自由な設計の中で性能を確保すべきだという方向に移ってきました。
 安全性も,単に仕様規定に適合していればよいのではなく,一定の安全性能を持つ建築を自由な発想で考える時代となりました。無駄なコストを抑え,合理的で美しい設計が求められているのです。スマートなデザインで安全性を確保することが,設計者に期待されているのです。

 本書はこうした理由から,常に建築の全体像を把握して設計を進めていく建築デザイナーのための火災安全計画の解説書として執筆したものです。数式や法規にとらわれず,防火の基礎知識,防災設計の発想方法,設計段階での具体的対応を,読めばすぐ理解できるように書くことに努めました。やさしく書いてはありますが,重要な点は網羅しているつもりです。したがって,これから防災の技術を専門的に勉強していこうと考える方の入門書として,また,大学や専門学校での教科書として、幅広く活用いただけることと思います。

 必ずしも自分の立場からだけではなく,専門の垣根を超えて,トータルに安全な建築を造っていこうという著者の願いをご理解いただければ幸いです。

 この本をまとめるにあたって,書き方の工夫のアイディアを出していただいた編集の越智和子さん,図版の作成に協力してくれた東京工業大学木下芳郎助手,写真をご提供いただいた、日本設計,日建設計の両社ならびに、朝日新聞社に感謝いたします。

    1999年6月

青木義次・富松太基・森山修治 


学芸出版社
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