住まいはかたる

シリーズ建築人類学「世界の住まいを読む」


書 評


『新建築』 1999.4

 身の回りに同じような家が建ち並び、伝統的な住まいを失いつつある日本。住まいと共に受け継がれてきた日本固有の文化も現代生活の中で失われようとしている。
 本書では人類の住まいの原点にたちかえり、地球上のさまざまな民族のユニークな住まいを紹介している。執筆はそれぞれ現地で長時間のフィールドワークに従事した専門家が担当し、地域文化から住居のつくり方まで各地域生活に密着した詳しい解説がまとめられている。これらは人類の文化がいかに住まいというものを中心に展開してきたかを明示し、人と人をつなぐ媒体としての住まいの役割をわれわれに再認識させてくれるものになるだろう。

(M)


『造景』 1999.4

 シリーズ建築人類学「世界の住まいを読む」の1冊(4分冊)。世界各地の伝統住居を紹介している。今回は、アラック(ラオス)、トラジャ(インドネシア)、バリ(インドネシア)など、12地域の住まいが取り上げられている。すべてフィールドワークによる現場からのレポートである。住居の形式を固定してとらえるのではなく、常に変化していく様をありのままに伝えている。そこが本書の読み応えのあるところだ。しかも各レポーターが、住居のみにとらわれず、広く社会の有様を観察している点が記述の内容に幅を与えている。
 かつてレヴィ=ストロースは現存する未開文化が、失われた全体の断片にすぎないとして、『神話論理』や『野生の思考』で壮大な知の体系を明らかにした。本書は、対照的な視点から編纂されたものだが、「住居」という人類の普遍的なシステムの存在について空想させる刺激に満ちている。



『建築と社会』 1999.4

 既に本誌で紹介済みのものも含め、当シリーズの50に及ぶ論考は、地球上の様々な住まいを、単に伝統的住居として賞賛するのではなく、文化としての住まいと文化を担う社会や人間との関係において、歴史でも民族でも国家でもない人類という視点から論じられている。
 住まいをつくるという人類誕生以来脈々と営まれてきた行為は、たとえ時間と共に表現形態、表現手法が変化しようと、高度情報化社会に突入しようと、そこに住まう営みに何らかわりはなく、住まいは人と人、人と社会を繋ぐ媒体であり続けている。
 住まいを通してかたられる人間・社会の存在を垣間見ながら、住まいという器に自己の存在を刻み込んできた先人達の何ともいとおしいことか。読み進めるうちにそんな気分になるのである。
 また、当シリーズ@〜Cは地球上の住まいに関する資料として手許に置いて、時々眺めたくなる本でもある。

(Y.O)



学芸出版社
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